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理不尽な恋 12(夏樹)

 ふぅ……と雪夜が大きく息を吐いた。 「大丈夫?ごめんね、何か……邪魔しちゃって」 「えっ!?あ、いや……あの……全然邪魔なんかじゃない……です……」  出しゃばってしまったので、雪夜が怒っているのかと思ったが、真っ赤な顔でうつむく姿を見る限り、怒っているわけではないらしい。  雪夜の頭を撫でようと手を伸ばしかけたが、背後に気配を感じて手を止めた。 「へぇ~、それが雪ちゃんか」 「……あ、お前まだいたの?」  吉田が夏樹の背後からひょこっと顔を出した。 「ぁん?よく言うよ。俺はなぁ、お前が一人二人軽くボコりそうな勢いで飛び出していったから、暴走しそうだったら止めてやろうと思って――ふがっ」  夏樹は急いで吉田の口に手を当てて、少し離れたところに引きずっていった。 「お~ま~え~っ!!!何言ってくれてんのっ!?」 「あはははっ、だってホントのことだし。そんな怖い顔したって、今更だぞ。お前があんなに嫉妬深いとは知らなかったな~」 「バッ……!声大きいっ!!っていうか、嫉妬とかしてないからっ!」 「あんな顔しておいて、嫉妬じゃないとか言うなよ。まさか無自覚なの?やだわもぅ……純情かよっ!!」  吉田が口元に手を当てて、ぷぷぷ、と変な顔で笑う。  嫉妬?俺がいつ嫉妬なんて…… 「雪ちゃんに他のやつが触ってるのが許せなかったんだろ?一般的にそれを嫉妬と呼ぶんだよっ」 「……っ」  言い返そうとしたが、吉田の言うことが正論すぎてぐぅの音も出なかった。  あぁ……がっつり嫉妬してたわ……そうか、このモヤモヤは嫉妬か。  え、マジか……俺が嫉妬って…… 「あ、初めまして、俺吉田っていいます。夏樹とは高校時代からの……」  夏樹がモヤモヤの原因に気付いて衝撃を受けている間に、吉田が勝手に雪夜に話しかけていた。 「……あ、どうも、初めまして。あの俺は……」 「君が夏樹の彼氏の雪ちゃんでしょ?」 「えっ……!」 「あれ、違うの?」 「いえ……違いませんけど――」 「はい、そこまで!」  夏樹は雪夜を後ろから包み込んで、片手で吉田の顔面を掴んだ。 「ふぁにふんふぁ(何すんだ)」 「じゃあな吉田。また連絡するから、さっさと帰れ」 「いててて、顔!!あ~もう、わかったよ。今日はこれくらいにしておいてやんよ。じゃあ、またね、雪ちゃん」 「()よ行けっ!」  性懲りもなく雪夜にちょっかいを出そうとしていたので、バシッと吉田の尻に軽く蹴りを入れる。  笑いながら去って行く吉田の後ろ姿を苦々しい顔で見送った。 *** 「はぁ……まったく……」  一息ついてふと視線を落とすと、腕の中にガチガチに固まった雪夜がいた。 「……っぁの……夏樹さん……ここ外……っ」 「あぁ」  別に夏樹はこれくらい全然気にしないのだが……そのまま耳にキスしたくなる気持ちを抑えて、雪夜を抱き包んでいた両手を上に挙げた。  というか、雪夜だって、さっきの相川とか言うやつに絡まれてた時はそんなこと気にしてなかったよな?  夏樹から急に解放されて雪夜が少しよろめく。  その腕を掴んで支えながら、次の言葉を探した。 「え~と……明日は朝一?」 「へ?あ~えと、明日は午前中の講義が休講になったので昼からです。だから今日飲み会に……」 「じゃあ、ちょっと家に寄っていかない?あ、それともこの後用事あった?」 「ないです!でも、夏樹さんは明日仕事なんじゃ……」 「ん~、そうだけど、今日はまだ早いし。じゃあ、行こうか」  周辺に人が増えてきたので、半ば強引に雪夜の背を押して夏樹の家に移動した―― ***

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