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理不尽な恋 13(夏樹)
「お邪魔します……」
「どうぞ。コーヒー飲む?晩御飯は食べたんだよね?」
「あ、はい」
つい数日前にも来たのに、初めて来たかのように緊張してソワソワしている雪夜につられて、夏樹まで緊張してしまう。
「ん、どうしたの?」
「いや、あの……金曜以外に会うのって初めてだから、なんかその……変な感じっていうか……」
「嫌だった?」
「嫌じゃないですっ!嬉しいですっ!」
食い気味で返ってきた返事に、思わず笑ってしまう。
笑いすぎですよ……雪夜が少し口唇を尖らせて頬を膨らませた。
その表情が可愛くて、ごめんごめん、とその頬を指でつついた。
「さっきは……すみません」
「ん?」
「その……友人って……」
「あぁ、大学では隠してるんだろ?前に言ってたよね、だから“友人”って言っちゃったんだけど……“恋人”って言っても良かった?」
「いえ、それはまだちょっと……でも、夏樹さんはお友達さんに俺のこと……ちゃんと話してくれてるのに、なんか申し訳ないっていうか……すみません」
雪夜が少し泣きそうな顔で下唇を噛んで下を向いた。
あぁ、そんなに噛んだら血が出ちゃうよ……
雪夜の顎をそっと掴んで上を向かせ、噛みしめていた口唇を開かせる。
少し赤く充血した口唇を親指でなぞった。
「……ん~……残念ながら同性愛に偏見を持ってる人は多いし、心無い言葉を浴びせる輩もいる。だから、わざわざみんなにカミングアウトする必要はないと思うよ。雪夜が信じられる相手にだけ話せばいい。それに、もし周りにゲイだとバレて、嫌なこと言われたり、されたりした時は、一人で抱え込まないで俺にも言って?俺たち付き合ってるんだから。わかった?」
夏樹が言うと、雪夜は目を大きく開いて夏樹をマジマジと見つめ、少し困ったような顔で、
「はいっ」
と笑った。
その笑顔に思わずドキッとする。
照れ隠しに、雪夜の頭をワシャワシャと撫でた。
「わわっ……痛いです夏樹さんっ」
「まぁ、実は俺も吉田……あ、さっきの図体でかいバカね。あいつに雪夜のことを話したのはついさっきなんだ。ホントは雪夜に言ってもいいか確認してからにしようと思ってたんだけど、ちょっとその……いろいろあって……勝手に話しちゃってごめんね」
「いえ、そんなっ、あの……嬉しかったです……」
そう言うと、また俯いた。
「仲良しなんですね」
「ん?あぁ、あいつとは高校からの腐れ縁だからね。親友っていうか悪友っていうか……ちょっと声がでかくてうるさいけど、良いやつだよ」
「……いいなぁ……」
「ん?」
「っ、なんでもないですっ!」
「なぁに?」
雪夜が何か言いかけて止めたので、顔を覗き込んだ。
「ああああの……ちょっと……羨ましいっていうか……凄くお二人仲良さそうだったので……ごめんなさい」
また謝る……雪夜はなんでもないことにまですぐに謝り過ぎだ……
っていうか、羨ましいってことは……
「妬いてる?」
「ふぇっ!?そそそそんなことはっ……」
「なんだ、違うの?俺は妬いたけどね」
「……え?」
「あの相川とか佐々木とか言う子たちに。だって、友達といる時の雪夜、俺の知らない顔をいっぱいしてたから」
「っえええ……っ!?そんなの、夏樹さんだって……俺の知らない顔してましたよ……?」
「そう?そっか……まぁ、確かに吉田といる時と雪夜といる時じゃぁ、同じにはならないよな……」
「……ですね」
「あの時の雪夜の顔を知ってるのは……俺だけだしな」
俯き加減になっていた雪夜の耳元に囁くと、両手で顔を覆ってもっと俯いてしまった。
その耳が真っ赤になっている。
雪夜は名前の通りに透き通るような白くて綺麗な肌をしている。
そのせいか、緊張したり、照れたりするとすぐに赤く染まる。
それが雪の上に咲く花のようで、やけに色っぽい。
雪夜の赤く染まった首筋に見惚れていると、急に静かになった夏樹を不審に思ったのか雪夜が顔を上げた。
形の良い少し薄めの口唇が夏樹の名を呼ぶ。
その動きに誘われて、口唇を重ねていた。
「夏樹さ……んっ!?」
最初は重ねただけだったが、雪夜がおずおずと口唇を開いてきたので、そのまま舌を押し込んで雪夜の舌を絡め取った。
部屋の中に、お互いの口から零れる熱い吐息とリップ音だけが響く。
夏樹が雪夜の服の中にスッと手を滑り込ませると、指の動きに合わせて雪夜がピクリと反応した。
雪夜の感度が良すぎて、どこを触っても反応するので、すぐにイかないように触り方も気を遣う。
でも、しっとりと吸い付いてくるような肌の感触が気持ち良くて、結局は夏樹が我慢ができなくなり全身を愛撫してしまうので、いつも挿入する前に雪夜がバテてしまうのだ。
夏樹が後ろに手を回すと、雪夜が必死に身体をよじって夏樹の手を握ってきた。
「……ぁ……や、だめ……お風呂入って……ないから……」
「そんなの気にしないよ」
「だめ……です。今日……お酒臭いし……っはぁ……」
お酒臭いって……多分、俺の方が酒臭いと思うけど……
「じゃあ、一緒にシャワー浴びる?」
「……や、あの……夏樹さんはそのままで!俺チャチャッと浴びて来るんで――」
そう言うと、雪夜は逃げるように浴室に駆け込んでいった。
ん~……がっつきすぎたか……
逃げていく雪夜の後ろ姿を見ながら、ガシガシと頭をかいた。
***
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