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どんなに暗い夜だって… 7-10(雪夜)

「あ、今更だけど、は一周年記念のプレゼントね」 「はい!ありがとうございます!」 「うん……って、ごめん、ちょっとだけ嘘。本当はもっと早くに用意してたんだけどね……雪夜を束縛したくないから今まで渡すのためらってたんだ……でも、今回のことで他のやつに雪夜を盗られるかもって……雪夜が俺から離れていくかもって思ったら……柄にもなく焦っちゃって……束縛してでも傍にいて欲しいと思った。……はは、我ながらちょっと理由がダサいよね……」  夏樹が少し自嘲気味に笑う。 「ねぇ雪夜、このリングは雪夜は俺のものっていう証だから、ずっと身につけててくれる?俺も同じリングずっとつけてるから」 「……ずっと……?」 「嫌?」 「嫌じゃないですっ!!だってずっと俺だけの夏樹さんでいてくれるってことでしょ?……めちゃくちゃ嬉しい……っ!!」 「うん、雪夜も、俺だけの雪夜でいてね」 「もちろんですっ!!」    夏樹が一周年を覚えていてくれただけでも嬉しいのに、こんな素敵なプレゼントを貰えるだなんて思ってもいなかった。  しかも、夏樹さんとお揃い!!嬉しいっ!!  今まで夏樹からはなるべくプレゼントを貰わないようにしていたけれど、それは別に夏樹のプレゼントが嫌だったわけじゃなくて……騙しているという後ろめたさもあったし、今は生活全般面倒見て貰ってるからそれ以上俺なんかに無駄なお金を使わせたくないという気持ちがあったからだ……  だから、このリングだって、本当は受け取るべきじゃないのだと思う……  お揃いでつけてくれているということは、夏樹のことだからたぶんそれなりにお高いもののはずだ。  居候の俺にそんな高価なリングをつける資格なんてない……もちろん安けりゃいいのかって言われたらそういうわけじゃないけど……  だけど……夏樹がつけてくれたのは左手の薬指……  夏樹には深い意味はないのかもしれないし、暗闇だから適当につけたのかもしれないけど……  今だけは都合よく考えてもいいでしょ?  夏樹の首に抱きつくと、暗闇の中、頬を摺り寄せ探り探り口唇を重ねた。 「んっ……はっ、んんっ……」  重ねた口唇から零れる吐息が熱い。 「愛してるよ、雪夜」  見えない分、全身が敏感になっていて、夏樹の囁く声やリップ音が身体の奥に響いてくる。  口唇や舌先もいつもよりも感じやすくて、夏樹に絡めとられただけですぐに頭が蕩けてしまいそうになる。  気持ち良くて夢中でキスをする雪夜に夏樹も情熱的なキスを返してくれた。    俺、今どんな表情をしてるんだろう……  夏樹さんは、どんな表情をしてるの?  リングを渡してくれた時から、雪夜を抱きしめる夏樹の手が少し強張っているように感じた。  夏樹さん、もしかして緊張してたのかな?  いつも余裕いっぱいの夏樹が緊張しているところなど想像もつかない。  夏樹がそれだけ真剣にこのリングを渡してくれたのだと思うと胸がいっぱいになった。 「夏樹さん、大好きっ……」  キスの合間に、頬を摺り寄せ首元に顔を埋めた。 「っ!?うん、俺も大好きだよ。でも、待って、あんまりここで煽らないで」  夏樹が少し切羽詰まった声を出した。  夏樹さんも興奮してる? 「……夏樹さん……」  雪夜はわざと夏樹の耳元で囁くと耳朶を甘噛みした。 「んん゛っ!……こ~ら、雪夜っ!煽るなって!そういうことはベッドでしてほしいんだけど?」 「ん、だって……今抱いてほしぃ……」 「っ!?あ~もぅ……っ」  夏樹が小さく息を呑んで、雪夜の肩に顔を埋めた。 「……星はもういいの?」 「うん、この星空はすごく魅力的なんだけど、今は星よりも……夏樹さんがいい……」 「……~~~っ!わかったからちょっとストップ!!近くに知り合いの別荘があるからそこまで待って!」 「別荘?」 「うん、今日はそこに泊まるつもりなんだよ。だから、ちょっとだけ我慢してね」 「あ、はい……ごめんなさい!俺あの……」  急に我に返った雪夜は、自分の言動の無神経さに気付いて慌てた。  いやいや、俺、何勝手に盛り上がってんの!?  せっかく夏樹さんが星を見に連れてきてくれたのに……星よりえっちがいいとか最低じゃないか!! 「やっぱり、もうちょっと星――」 「謝ることはないよ。俺もほんとは今すぐにでも抱きたいし。あんなに煽っておいて今更さっきのは嘘とか言わないでよ?後で思いっきり抱き潰すから、今夜は覚悟して?」  夏樹はそう言うと、もう一度雪夜の口唇を甘く食んだ。 「んっ……」  良かった、俺だけじゃなかったんだ…… 「あ、ちなみに別荘からも星がよく見えるから、星を見ながらシようね」  夏樹が愉しそうに雪夜の耳元で囁いた。 「ふぁっ!?」 ***  ――暗闇って、ある意味すごい……  顔が見えないから、あんな大胆なことが言えたのだと思う。  暗いのは怖い……何も見えないのは怖い……でも、何も見えないのに夏樹さんだけは感じることができる……  星空の下、今この瞬間だけは夏樹さんの全てが俺のものなんだって思ったら、夏樹さんのことを愛しく思う気持ちが溢れ出して、抑えきれなかった。  いっぱいキスして抱きしめて愛して欲しい――  車に乗った時、夏樹さんの耳が少し赤く見えたのは、きっと見間違いじゃないと思う。  まぁ、俺はそれ以上に真っ赤になっていたはずだけど…… ***  ――窓越しに遠ざかる星空を眺めた。  あんなに怖かった暗闇が、今は全然気にならない。  夏樹さんの意味深な言葉が雪夜の心の中にじんわりと広がっていく。  いつだって星は空で煌めいている。  どんな暗闇の中でも夏樹さんは傍にいてくれる。  俺はひとりじゃない……  一年前の夏樹との出会いは雪夜にとっては運命だった。  それは雪夜の人生を大きく変える程の……  こんな性癖じゃ、愛されることも愛することもないと思っていたのに、夏樹はどちらも与えてくれる。  誰よりも大切にしたい、誰よりも傍にいて欲しい、夏樹さんがいれば他には何もいらない……  どんなに暗い夜だって、夏樹さんと一緒なら……何も怖くない……  そう思った―― ***  この時の雪夜はただ純粋に、夏樹が雪夜のトラウマを少しでも軽くするためにあんなことを言ってくれたのだと思っていた。   雪夜があの言葉の裏に隠された真実を知るのは、まだしばらく先のことだ――…… ***

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