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どんなに暗い夜だって… 7-9(雪夜)
「ん?」
雪夜が物思いにふけっていると、夏樹が指を絡めて来た。
雪夜を抱っこしているのに器用に触るものだと感心していると、何か指に無機質な硬いものがはめられた。
何だろう?
よく見ようと目の前に指を持ってくるが、星明りの下では自分の手の輪郭が辛うじて見えるだけだ。
でも、感触からしてこれは……
「夏樹さん……?あの、これって……」
「雪夜、一年前の今日、俺を拾ってくれてありがとう」
「え……」
ハッとして夏樹の顔を見た。
今日は、雪夜が夏樹を拾って家に持ち帰った日からちょうど一年。
忘れていたわけじゃない。雪夜ももちろん覚えていた。
でも……
「一年前の今日は……夏樹さんにとっては最悪の日でしょ?」
「なんで?」
「だって、俺に騙されて……」
「ゆ~き~や?それについては俺は怒ってないって言ったよね?」
夏樹が雪夜の額に自分の額をコツンとぶつけてきた。
「そりゃね、目覚めた時に雪夜の家にいたのは驚いたし、その後の雪夜の言葉には頭が真っ白になるくらいショックだったよ?……だけど、雪夜が俺を拾って泊めてくれて、あんな嘘をついてくれたおかげで、今こうして一緒にいられるんだから……あれがなけりゃ俺は雪夜と出会うこともできなかったんだから……やっぱり俺にとっては一番特別で大切な日だよ」
「……夏樹さん……」
一年前の今日、雪夜は夏樹に最低なことをした。
酔いつぶれている夏樹を勝手に拾って家に連れてきて、そこで雪夜にとって一世一代の大嘘をついた。
そのおかげで雪夜は最高の恋人を手に入れたわけだけれど……
夏樹にとっては、半年間も騙され続けて虚偽の罪悪感に縛られていたわけで……
普通なら、そんなことをした奴なんて顔も見たくないはずだ。
だけど、夏樹はなぜか雪夜を好きになってくれて、そんな最低最悪な日も特別な日だと言ってくれる……
どう考えても雪夜のしたことは正しい事じゃない。
誰かを騙すなんて……そんなひどいことよく半年も続けられたものだと自分でも驚く。
もっと他のやり方があったんじゃないかと思う。
だけど、あの時の雪夜には、あれしか思いつかなくて……
「俺……あの……何も用意できてない……もちろん、俺も今日が1周年だって覚えてたんですよ!?でも……夏樹さんは1年前のことは忘れたいだろうなって思って……あんなことしておいてお祝いとか記念とか……無神経すぎるかなって……俺っ……」
暗くて見えないはずなのに、夏樹が雪夜の涙を舐めとって軽く口付けた。
「……雪夜にとってはどうだった?」
「え?」
「俺を拾って、1年間俺と付き合ってみた感想は?」
「感想……?」
「俺は雪夜の自慢の恋人になれてる?」
そんなの……決まってる……っ!!
「もちろんですよ!!夏樹さんは世界一自慢の恋人ですよっ!!」
「はは、ありがとう。俺にとっても、雪夜は世界一自慢の恋人だよ。可愛くて愛しくて……みんなに自慢したいけど、誰にも見せたくなくてずっと閉じ込めておきたくなるくらい……」
……ん?
「……夏樹さん?」
「んん゛、ごめん、ちょっと本音が出ました」
夏樹が慌てて咳払いをした。
「閉じ込めるの?」
「閉じ込めたいくらい好きってことです。実際にはしないよ?(たぶん)」
「……俺……夏樹さんになら閉じ込められてもいいですよ?」
「はい、そこ!よく考えて発言するように!!」
「ちゃんと考えてますってばっ!」
夏樹と二人でクスクス笑い合った。
冗談めかしてこんな会話ができることが幸せだ……
「ねぇ雪夜、今も暗闇は怖い?」
「え?……う~ん、今は怖くないです」
「どうして?」
「だって、今は夏樹さんがいるし、星もいっぱいだから」
「そっか。あのね、雪夜。暗闇が怖いなら、怖がっていい。誰にだって怖いものはあるんだから、雪夜にとってはそれが暗闇だったってだけだ」
「うん」
「でもね、もし雪夜が暗闇に取り込まれそうになったら、今日のことを思い出して。暗く見えても空にはいつでも星があるし、いつだっておれはここにいるから」
そう言って、雪夜の指にはめたリングをトントンと叩いた。
「これだけは忘れないで。何があっても俺は雪夜を助けに行く。どんな暗闇にいても、必ず俺が傍にいる。雪夜はどんな時でもひとりじゃない」
「え……?」
雪夜が意味深な夏樹の言葉に戸惑っていると、
「まぁ、今のは……頭の隅にでも入れておいてくれたらいいから」
と言って夏樹がギュッと腕に力を込めた。
どういう意味なんだろう……
夏樹が助けに来てくれるのはわかってる。
今までだって、雪夜が困ったときには必ず助けてくれたもの……
だけど、なんでそんなことを改めて言ったのかがわからない……
それに暗闇って……?
ちょっとモヤっとしたが、きっと何か意味があるなら夏樹がまた話してくれるはずだと思い、深く考えるのをやめて夏樹に抱きついた――
***
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