165 / 715

どんなに暗い夜だって… 7.5-1(夏樹)

《どんなに暗い夜だって……おまけ ~夏樹の決意~》 「行ってきまーす!」 「行ってらっしゃい。楽しんでおいで」 「はい!」  夏樹は、佐々木と相川に挟まれて満面の笑みで手を振る雪夜を苦笑しながら見送った。    ――緑川の件が終わって数日。  雪夜は、隣人トラブルの時のようには不安定になることもなく、表面上は変わりなく過ごしている。  ただ、今回の件は自業自得だという気持ちがあるらしく、夏樹たちに心配をかけまいと無理をして明るく振る舞っている様子が見られた。  そんな雪夜を元気づけようと佐々木たちが遊園地に連れ出してくれたのだ。  後ろ姿からも雪夜が初めての遊園地にワクワクしているのがよくわかる。  あ~もう……可愛い……っていうか……俺も行きた……いやいや、今日は友達だけで行く日だから、仕方ないよな……  少し淋しく感じながらも、夏樹は駅を出た。  夏樹は夏樹で、今日は人と会う予定がある。  今日会うのは夏樹にしては珍しく、ちょっと……いや、だいぶ気合を必要とする人達だ。   ***  夏樹は車から降りると、腕時計をチラリとみてから歩き出した。  約束の時間よりも早いが……まぁ、大丈夫だろう。  繁華街の片隅、ビルとビルの隙間にある地下に続く階段を下りていく。  突当りの壁には黒地に銀狼の絵が描かれているだけで、店の名前はどこにも書かれていない。  ここは、紹介制……と言えば聞こえがいいが、要は仲間内だけで楽しむ隠れ家的なバーなのだ。  一見(いちげん)さんの入店を禁止しているわけではないが、まず一見さんでここにたどり着ける人はいないだろう。  店なのかどうかもわからないような怪しげな扉を開けて入って来る度胸のある一見さんなら、それはそれでこの店の客たちに大いに気に入られると思うが…… ***  夏樹は『CLOSED』の看板がかかるバーの扉に手をかけた。  この看板が『OPEN』になっているのを、夏樹は見たことがない。  それも一見さんが入ってこない理由になっている気がする。  少し薄暗い店内には、当然ながら客は誰もいない。 「お、来た来た」  カウンターでグラスを磨いていた男が夏樹を見てニッと笑い、目顔で入って来いと促した。 「おい、ナツ来たぞ~」  カウンターの奥にある扉を軽く叩いて呼びかける。  扉の奥には、休憩室と称してVIPルーム並みに広くて豪華な部屋がある。  夏樹も何度か入ったことがあるが、もしかしたら店内よりも広いかもしれない。  店内の様子は数台ある監視カメラで奥の部屋に筒抜けなので、バーテンダーが呼ぶ前から夏樹が来たことにも気づいているはずだ。 「すぐに来ると思うから、ちょっと待ってな。適当に座れよ。何飲む?」 「お久しぶりです、(あきら)さん。今日は、ノンアルでお願いします」  夏樹は、入口に一番近いカウンター席に座りながら、バーテンダーに挨拶をした。 「ん?ノンアルってどうした?この後運転でもすんのか?」 「あ~、はい……ちょっと詩織(しおり)さんの別荘がある辺りに行こうかと……」 「へぇ~、別荘も行くのか?」 「そのつもりです。一応、詩織さんには連絡してあります」 「ナツから連絡したのか。詩織さん喜んだだろう?」 「はい、また今度顔見せに来いと言われました」 「ははは、あの人ナツのことはイツキの次にお気に入りだからなぁ」 「そうなんですか?」 「そりゃもう。しょっちゅうコージにナツの様子聞いてるし」 「ええ!?」 「まぁ、聞かれてもコージはお前のことほとんど把握してないから『ワカリマセン』って言って詩織さんに呆れられてるけどな――……」 「おぅ、お待たせ!久しぶりだなナツ!」  バーテンダーの晃と話していると、奥からぞろぞろと男たちが出て来た。 ***

ともだちにシェアしよう!