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SS8【ハローベイビー♪18(雪夜)】

――なんだかんだで時は過ぎ…… 「ずるいいいいいいっっっ――!!」  その日、朝から別荘中に悲壮感漂う大絶叫が響き渡った。 「……ん~?」  今の声は……夏樹さん?  雪夜は寝惚け眼を擦りながらベッドから抜け出した。  動く度に全身がギシギシと軋んで、違和感がある。  なんだか動きがぎこちなくて自分の手足じゃないみたいだ。 「お!雪ちゃんおはよ!ナツの声がうるさいから目が覚めちゃったか?」 「おふぁよ~ごじゃりましゅ……」  フラフラしながら寝室から出ると、(たかし)が気付いて雪夜を抱き上げた。 「たかしゃん、なちゅきしゃん、どうしたでしゅか……?」 「ああ、あれはな……」  まだ頭の中がぼんやりしているせいか、舌がうまくまわらない。  隆はそんな雪夜に爽やかに笑いかけながら、簡潔に状況を説明してくれた。  まず、雪夜と夏樹は祓い屋にお祓いをしてもらった数日後、無事に元に戻った。(ちなみに莉玖たちは雪夜たちが元に戻る前に帰っている)  今回のような身体変化系の呪いは身体への負担が大きいせいか雪夜たちは元に戻ってからも数日間眠っていたらしいが、もう結界はなくても大丈夫だろうということで、眠っている間に斎たちが別荘に連れて帰って来てくれたようだ。    そして、ようやく起き上がれるようになった今日。  先に目覚めた夏樹が、斎たちから雪夜も赤ちゃんになっていたと聞いて、この大騒ぎとなったらしい。  そういえば俺も赤ちゃんになったんだっけ……だからこんなに全身がギシギシしてるのかな? 「――斎さんヒドイよぉおお!!」  夏樹はまだ雪夜が起きてきたことに気づいておらず、斎の前に崩れ落ちてダンダンと床に拳を叩きつけた。   「なんで……なんで俺が戻ってからにしてくれなかったんですかっ!!」 「なにを?」  斎は優雅にコーヒーカップを持ち上げると、すまし顔で首を傾げる。  隆が「いいか、雪ちゃん。あれは完全にナツをからかう気満々の顔だぞ」とこっそり教えてくれた。 「だ~か~ら~!雪夜のお祓いですよぉおおおっっ!!なんでもうちょっと待ってくれなかったんですかっ!」  斎の様子に気付いているのかいないのか、夏樹はむくれ顔で続ける。 「そう言われてもな~……雪ちゃんはおまえのお祓いの最中に呪いのとばっちりをうけただけだから、祓い屋がそのままふたりまとめて祓ってくれたんだよ。だいたい、雪ちゃんだけまた後日……なんて言ってたら次はいつになるかわかんねぇし」 「それはそうですけど……俺も……俺もちっちゃい雪夜見たかったぁあああっ!!」 「しょうがねぇなぁ、特別に見せてやんよ」  斎がちょっともったいぶりながらタブレットの画面を足元の夏樹の眼前に突きつけた。 「あ゛~~っっ!!何これ天使ぃいい!!って、斎さん何抱っこしてんですか!俺もぉおお!!俺も赤ちゃんの雪夜抱っこしたかったぁあああっっ!!」 「ふふふ~ん。いや~、ベビ雪ちゃん可愛かったなぁ~。ほらほっぺなんてぷにぷにで……」 「斎さんばっかりズルいぃいいいっっっ!!」 「な~に言ってんだよ。おまえだってベビ雪ちゃん抱っこしてたんだぞ?ちゃんとここにいるじゃねぇか。ほれ、このクソ生意気そうな顔でベビ雪ちゃん抱っこしてんのがちびナツだぞ?」 「んなこと言われても、俺覚えてませんし!!あああ~!くそっ!マジで俺なんで覚えてないんだよぉおお!おいガキの俺ぇえ!!ちょっとそこ代われよぉおおおっ!」  夏樹は画面に映る子どもの自分をバンバンと叩いた。 「やめろバカ!壊れるだろ!っつーか、ちびになってた時のことって覚えてねぇのか?」 「覚えてません!」 「全然?」 「ええ、全然!これっぽっちも!覚えてたらこんなに……ん?あ~……いや、身体が縮んだ瞬間は覚えてます。寝てたらなんか違和感があって、自分の手足がちっちゃくなったな~ってところは覚えてますけど……」  残念なことに夏樹も雪夜も、自分が赤ちゃんになっていた間の記憶は全くない。  雪夜も、赤ちゃんになったあの瞬間だけは覚えているが、その後の記憶は全くないのだった。 「なるほどね~……ところでナツ、俺は別にいいんだけど~……おまえはいいのか?アレ」 「へ?あれ?」  夏樹は、含みのある斎の言葉に首を傾げながら背後を振り返り一瞬固まった。  視線の先には、ニヤリと笑う隆。  その隆の腕の中には…… 「~~~~っ!?ゆゆゆ雪夜っ!?え、待って、いつからそこに!?」 「ん~?ちょっと前からだな」 「なんで隆さんが抱っこしてるんすか!」 「なんでと言われてもな~。雪ちゃん寝起きでフラフラしてたし、おまえは全然気づかねぇし?」 「う゛っ……それはたしかに気づかなかった俺が悪いんですけど……でも声くらいかけてくれれば……」  夏樹はちょっと口を尖らせてモゴモゴと言い訳をしつつ、隆に抱っこされてウトウトしていた雪夜の顔を覗き込んだ。 「雪夜~?雪夜く~ん?起きて~!ほら、夏樹さんはここだよ~!?は夏樹さんじゃないよ~!?こっちおいで~!?」 「ぅ~ん……なちゅきしゃん……?」 「そう、雪夜の大好きな夏樹さんだよ~。ほら、こっちだよ~」 「必死だな、おまえ……」  雪夜を隆から取り戻そうと手を伸ばす夏樹に、隆と斎が憐憫のまなざしを送った。 「なちゅきしゃん……おれ、あかちゃんがいい?」  雪夜は寝惚け眼で夏樹を見ると、思わず呟いた。  なぜなら、ウトウトしながらでも夏樹の声は聞こえていたから……  夏樹さんは赤ちゃんが好きなのかな?俺、赤ちゃんの方が良かった?   「え?ああ、違うよ。あれはね、せっかく雪夜が赤ちゃんになってたんなら、赤ちゃんの雪夜も抱っこしたかったな~って思っただけだから!どんな雪夜でも好きだってことだよ。俺は大好きなんだよ!」 「おっきいおれでもいいの?」 「もちろん!いいに決まってるでしょ!」 「……そか……ふふっ」  雪夜は照れ笑いをすると、ちょっと顔を伏せながら夏樹に抱きついた。    どんな俺でもいいんだってさ……嬉しいっ! 「おれもね……あかちゃんのなちゅきしゃんも、おっきいなちゅきしゃんも、どっちもしゅき!」 「そう?ありが……ん?ちょっと待って?赤ちゃんの俺?雪夜、赤ちゃんの俺のこと覚えてるの?」 「……スピー……プスー……」 「ちょ、雪夜!?また寝ちゃったの!?もしも~し!今の一体どういうこと~~!?」  夏樹に軽く身体を揺すられたが、まだ体力が戻っていない雪夜は眠気に勝てずムニャムニャと答えるのが精一杯だった。 「こら、ナツ!雪ちゃんはもうちょっと寝かせてやれ」 「まぁ、雪ちゃんが赤ちゃんになったのは寺でお祓いしてる時だから、その前のことは覚えてるんじゃね?俺らも覚えてるんだし」 「あ~……なるほど~?……じゃあな~んにも覚えてないのは俺だけか~……」 「そういうことだな」 「……不公平だぁああああ!!やっぱり俺も大人に戻ってから赤ちゃん雪夜抱っこしたかったぁあああああ!!――」  雪夜は、雪夜を起こさないように小声で叫ぶ夏樹の声を聞きながら、また夢の中へと落ちていったのだった――……  りんくん、かわいかったな~……   ***

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