714 / 715
SS8【ハローベイビー♪17(雪夜)】
兄さん連中は、翌日の夜明け前からやってきた。
交替で雪夜と夏樹の面倒をみるのは、もうみんな慣れたものだ。
だが、斎の予想通り今回はいつものようにスムーズにはいかなかった。
「あ~帰りたくねぇな~、もうちょっとちび雪ちゃんと遊びた~い!」
「おい、次俺の番だろ?早く抱っこかわれよ!んで、おまえはとっとと帰れ!」
「うるせ!だいたいおまえが1時間も早く来て邪魔してきたせいで俺の抱っこ時間が減っちまっただろうが!時計くらいちゃんとみろよ!」
「た、たまたま早く着いたんだよっ!」
「おまえらうっせーぞ!雪ちゃんがびっくりしてるだろ!ったく、そんじゃ俺は帰るわ~」
「おいこら待て!雪ちゃんは置いて行け!」
「チッ!バレタか……」
「バレるわっ!」
こんなやり取りの繰り返しで、みんな帰りたがらないのだ。
そうこうしている間にまた次の兄さんが来てしまうので、部屋の中は大渋滞。
「もう!みんないい加減にしてよぉ~!せっかく時間調整したのに意味ないじゃんかぁ~!」
斎 に大急ぎでバブちゃん当番表を作らされた裕也が手を腰に当てて顔をしかめた。
もうお祓いはしてもらったので、雪夜も夏樹もいつ元に戻ってもおかしくはない。
天使なふたりに会えるのは今だけだから、なるべく全員がふたりに会えるようにこの2日間は数人ずつ、数時間で交替していくように調整した。
だが、そのせいでひとりひとりの担当時間が短くなり、その結果この大渋滞になっているわけだ。
少しでも長く一緒にいたいというみんなの気持ちはわからんでもないが、当番表を作る裕也の苦労も少しは考えて欲しいものだ……
「ユウには悪 ぃと思うけどよぉ……」
浩二が裕也に反論しようとした瞬間、襖がパーンと開いた。
「え~い、どいつもこいつもやかましいっ!ここは家じゃないんだよ!まったく、いくつになったらわかるんだい!ほら、みんなそこに座りなっ!」
「「うげっ!愛ちゃんゴメンナサイっ!!――」」
だんだんと人数が増えて収拾がつかなくなってくると、こうやって愛華の特大の雷が落ちて、長いお説教の後、お仕置き代わりの床掃除が始まる。
それでも懲りずに毎回繰り返すのだから困ったものだ。おかげで宿坊の床はツルツルのピカピカだ。
……っていうか、もうそこまで含めて楽しんでるのかも?
「なおちゃん、連れて行きな!」
愛華は浩二たちから雪夜を抱き取ると、菜穂子にポンと渡した。
「は~い、それじゃあ可愛い可愛いエンジェル雪ちゃんは私と一緒にりんくんたちのところに行こうか!」
「あ~い!」
雪夜は愛華にお説教されている兄さん連中にこっそり手を振って、菜穂子と隣の部屋に移動した。
***
「――……だからね、あ~のとパパとりくは“かぞく”なのよ!」
「あ~の?かじょく?」
「あ~のはね、ごはんじょうずなのよ!りくはね、あ~ののごはんがいっちばんすきなの!おいしいのよ!」
ブロック遊びをしながら夏樹と楽しそうに話しているのは、雪夜のための結界札を盛大に破った莉玖 だ。
あの時一緒にいた綾乃 という人が父親なのかと思ったが、綾乃は莉玖の父親の恋人で、一緒に暮らしているのだとか。
「それでね、あ~のはね、えっとね、いっぱいあそんでくれるしね、おもしろいのよ!」
「ほぇ~……ねぇねぇ、てぃくたん 、あ~の、どこ?」
夏樹がキョロキョロと周囲を見回した。
「え?あ~……あれ?どこだろ……あ~の~!」
莉玖も夏樹と一緒にキョロキョロして、う~んと首を傾げる。
「あ!パパのところかな!」
「パパぁ?」
「うん、りくちゃんのパパよ!パパはね、いっつもこ~んなこわいおかおなのよ。でもね、よしよししてくれるしね、えっとね、だっこもしてくれるのよ!」
ふむふむ、莉玖くんのパパは……らいぞーパパみたいなかんじなのかなぁ?
雪夜はふたりの間で寝転がって音の鳴るおもちゃを振り回しながら会話に耳を傾けていた。
莉玖の父親は現在、一番奥の部屋で寝込んでいる。
今回の呪いの品はかなり厄介な代物 だったらしく、祓い屋が珍しく全力を出してようやく封じ込めたのだとか。
莉玖の父親は、その祓い屋が本来の霊力 を発揮するために必要だとかで急遽呼び出された挙句、霊力を大量消費したせいで倒れてしまったらしいのだ。
そんなわけで、莉玖の父親が回復するまで莉玖たちも寺 に滞在するらしい。
ん?ってことは、莉玖くんのパパも祓い屋さんなのかな?ハッ!もしかして、俺まで呪いを受けちゃったせいで、お祓いがふたり分になったから大変だったのかも……?
だとしたら申し訳ないな……元に戻ったらちゃんとお礼言わなきゃ!
***
おやつの時間。
「莉玖~、りんく~ん、お待たせ!ホットケーキ焼けたぞ~!あれ?雪夜くんもこっちに来てたのか」
綾乃がふわふわホットケーキが盛られた皿をお盆に乗せてやってきた。
「わぁ~い!」
「おっとっとけーち!」
夏樹と莉玖がふたり揃って万歳をする。息ピッタリな動きに思わず綾乃と菜穂子がふふっと笑った。
「あ~のがつくったの?」
「いや、これは隆 さんが焼いてくれたから超ふわふわだぞ~!お店のホットケーキみたいだろ?」
「たかし……だぁれ?」
「あ~、莉玖はまだ会ってないからわかんないか。えっと、りんくんたちのお友達だ!」
「そっか!りんくんのおともだち、ふわふわじょうずだね!」
「うんうん、おいちぃねぇ!」
ホットケーキを口いっぱいに頬張りながら、ふたりが顔を見合わせてうふふと笑った。
「ゆっくり味わって食べろよ~!よく噛んでな!んで、こっちは雪夜くん用です!これがにんじん入りで、こっちはりんご入りだぞ~!あ、菜穂子さんの分も持ってきますね!」
「ありがと~!ほら、雪ちゃんおいしそうだね~!食べやすいようにちっちゃいホットケーキだよ~!」
雪夜は菜穂子の膝に座らせてもらってホットケーキに手を伸ばした。
小さい赤ちゃんの手でも掴みやすいサイズだ。
わ~!かわいいホットケーキ!
よいしょっと……あ~……ん?あれ?おかしいな、なかなか口に入らない……っていうか、俺の口はどこですか?ここか!もぐもぐ……
「ん~~~まっ!!」
「ゆちたんもおいちぃね~!」
「あ~い!」
雪夜は口の周りに生クリームをべったりつけた夏樹たちに、にっこり笑い返した。
わぁ、りんくんたちお口がサンタさんみたいになってますよ~。うふふ、可愛いなぁ~!
って、俺の方が赤ちゃんでしたね。
コホン!そんなことより次はりんごのホットケーキを食べてみよう!
あ、こっちもおいしい!
「雪ちゃん、りんごのホットケーキもおいしい?よかったねぇ!」
「あ~い!」
とってもおいしいです!
でも……りんくんたちが食べてる生クリームとかフルーツがたっぷりのふわふわホットケーキも食べてみたかったぁあああ!!早く大きくなりたいっ!
***
ともだちにシェアしよう!