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SS8【ハローベイビー♪16(雪夜)】
「――……あ~疲れた……ハハッ、気持ち良さげに眠りやがって……」
数時間に及ぶお祓いの後、疲労困憊の祓い屋が何も知らずにグースカ眠っているちび雪夜とちび夏樹を見て苦笑した。
「お疲れ様です。で、どれくらいで元に戻るんですか?」
斎は祓い屋の前にお茶を置き、いそいそと雪夜たちの枕元に座るとふたりのぷにぷにほっぺをつついた。
「さぁな~……それは俺にもわからん。まぁ、長くても一週間くらいじゃね?」
「一週間……」
「呪いについてはもう大丈夫だとは思うが、今はある意味無防備で隙だらけの状態だからな。他の変なのに目をつけられないように、元に戻るまでは念のため結界の中で様子を見た方がいいとは思うんだが……」
「ということは、ふたりが元に戻るまでは寺 にいた方がいいってことですね?」
「そうだな、寺 ならこのまま結界を維持するだけでいいから、ぶっちゃけ助かる。俺もしばらくは動けそうにないしな。だが、このちびっこの世話できるやつも一緒にいてくれねぇと……誰か残れるか?」
「あ、その点は大丈夫です。むしろ、逆が大変かと……」
「逆?」
「いえ、こちらの話です――」
その後、住職も交えて今後について話し合い、雪夜たちが元に戻るまでは寺の宿坊の数部屋を貸し切りにしてもらうことになった。
いつものメンバーは斎から「雪ちゃんも赤ちゃんになったぞ」と知らせが入るなり一斉にスケジュールを調整し裕也に連絡を入れた。さすがに全員で寺に押しかけるわけにはいかないので、裕也が全員のスケジュールをみながら面会の時間を組んでいくのだ。
そして数時間後には早速大荷物を持った愛ちゃんと菜穂子 が嬉々として駆けつけたのだった。
***
「あ~何このぷにぷにぃ~!雪ちゃん可愛いぃいいい!!」
「ほ~んと、食べちゃいたいくらい可愛いねぇ~!!」
『――見た目は赤ちゃん、中身は(ちょっとだけ)大人……どうも、雪夜です!
夏樹さんと同じく、よくわからない呪いのせいで赤ちゃんになったボクは、現在愛ちゃんママとなお姉に交互に抱っこされて“ほっぺたスリスリちゅっちゅ攻撃”されてます。
ちょっと恥ずかしいけど、ふたりの勢いには勝てません。
もちろん夏樹さんが赤ちゃんになった時も大騒ぎだったので、予想はしていました。
が、思っていたよりずっと激しいです。はい。ほっぺた潰れそうです。っていうか、潰れてます。でも、逆らってはダメなのです。下手に逆らうと愛ちゃんママにプチっと潰されてしまいそうなのです……ぷるぷる……ここは愛嬌を振りまいて無垢な赤ちゃんのふりをしておくのです……頑張れボク!(裏声)』
「ちょいと裕也!さっきから何をブツブツ言ってんだい!?」
「ん?愛ちゃんに抱っこされてる雪ちゃんの心情をアテレコしてみてるんだよ~?うまいでしょ!『ほぉら、みんなぁ~!可愛いボクに癒されろ~!(裏声)』ってね!」
裕也が雪夜の手を持って軽くピコピコと動かす。
「アハハハ!うんうん、上手だね!でもユウくん、雪ちゃんは“ボク”じゃなくて“俺”じゃなかった?」
「お、いいところに気がついたね!なおちゃんさすが!そこはね、ちび雪ちゃんだからボクにしてみたんだよ!」
「なるほど~!」
なるほど、だからボクなんですね!
あ、どうも。ボク……じゃなくて俺が本物の雪夜です!
裕也さんのアテレコが面白くて聞き入ってました。
でも、安心して下さい!愛ちゃんママもなお姉もとっても優しくて抱っこも上手ですよ。
うん、ほっぺたは潰されてますけどね!?
「アテレコだって?まったく、なにバカやってんだい!どぉ~れ、潰して欲しいのはこの頭かい?」
呆れ顔でため息を吐いた愛華が、にっこり笑って裕也の頭を片手で掴んだ。
「痛たたたっ!やめてぇええ!頭を潰して欲しいなんて言ってないよぉ~!」
「おやぁ~?なかなか潰れないねぇ~」
「いやいやいや、愛ちゃん!?マジで潰さないでよ!?」
わぁ~、裕也さんの頭がピンチ!
えっと、そうだ!ここはひとつ裕也さんが言っていたように赤ちゃんらしく愛嬌を振りまいてみます!
コホン……くらえっ!必殺っ……
「きゃ~ぃ!きゃはははっ! 」
雪夜が手をパチパチしながら笑うと愛華がパッと裕也の頭から手を外し、光の速度で菜穂子に抱っこされた雪夜の元へと戻って来た。
ふぅ、なんとか裕也さんの頭は守れたかな?
俺が笑えば世界は平和!
みんなの笑顔のために赤ちゃん雪夜がんばります!
って、ダメだ。なんだか完全に裕也さんの口調がうつっちゃったな……恥ずかしっ!!
「あらぁ~、雪坊 ご機嫌だねぇ~!面白かったかい?」
「あ~い!ま~んっまっ!」
「んん!?ちょいと今の聞いたかい!?「愛ママ」って言ったよ!?雪坊スゴイね~!」
「え~?それってお腹空いただけじゃ……」
「裕也、なんか文句でもあんのかい!?」
もぅ!裕也さんちょっと黙ってぇええ!!
俺の努力がぁああ!!
「モンクナイデス!雪ちゃんスゴイ!雪ちゃんカワイイ!」
「よしっ!」
よしっ!
***
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