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SS8【ハローベイビー♪15(雪夜)】

 ――……なんだろうこの匂い……お香?  目を覚ました雪夜は、部屋中に漂う嗅ぎなれない匂いに一瞬戸惑った。  あ、そうだ!たしか夏樹さんのお祓いのためにお寺に来てて……あれ?休憩室ってこんなだっけ……?っていうか、やけに煙たいのはお香のせい?……鼻がむじゅむじゅす……   「……~~~っぷちゅん!……ぅ?」  大きなくしゃみをして鼻をズズッとすする。  無意識に手の甲で鼻を擦ろうとしたところで、誰かに手を掴まれていることに気付いた。  そちらに顔を向けると、目の前にはスヤスヤ眠っている子どもの顔。  ……っはぅあ!夏……じゃなくて、りんくんのどどどどアップ!可愛ぃ~っ!  あれ?お祓いは?もう終わったのかな……?  それにしても数時間ぶりのりんくんだ!……ちょっと大きくなった?いや変わらないか。だってほら、りんくんの手小さ……んん?……いやこれ小さい方が俺の手だ……?  ああああああっ!そうだった!待ってる時になんかバーンってなって、俺も赤ちゃんになる夢を……え、あれって……  夢じゃなかったのぉぉ~~っ!? 「あばぁ~~っ!」 「おっと、起きたみたいだな」  雪夜の声に気付いて斎が雪夜たちの方に近付いて来た。 「ありゃ、おちびさん起きちゃったか。どうする?このまま祓うか?」 「いえ、雪ちゃんは眠らせてからがいいですね。でもその前に……ほぉ~ら雪ちゃんおいでぇ~!」  斎は雪夜の手を握っていた夏樹の手をそっと引き剥がし、満面の笑みで雪夜を抱き上げた。斎と話をしていた祓い屋は、「俺がいるとおちびさんが怖がるからな。ちょっと休憩してくるわ」と言いながら、どこかに行ってしまった。   *** 「雪ちゃ~ん、斎お兄さんだぞ~、わかるか~?」  いいいいつきしゃん!大変ですよぉおお!おおお俺が俺ですよ!じゃなくて、ゆ、雪夜ですよ!あ、俺が雪夜ってことはわかってます?そうなんですよ!俺まで赤ちゃんになっちゃいましたっ!!どどどどうしましょう!?   「あ~!だ~!だ~!あぶぶぶぅ~!」  ダメだぁあああ!何を言っても赤ちゃん語だぁあああ!!  でもワンチャン斎さんなら通じて…… 「うんうん、お腹空いたか~?今ミルク作ってくれてるからちょっと待ってね~。それにしてもちっちゃいな~!ナツも可愛かったけどやっぱ雪ちゃんは天使っ!はい、ここみて~?」  全然通じてないぃいい!!  斎は、テンパって手足をブンブン振り回す雪夜を手慣れた様子であやしながら、なぜか雪夜の写真を撮り始めた。  ちょっと斎さん!写真なんて撮ってる場合じゃないですってばぁあああ!!  ……え、笑うんですか?もぅ!一回だけですよぉ~?……えへへ~!  え、俺可愛いですか?いやいやそんなことは……じゃ、じゃあもう一回だけ…… 「ぅきゃぁ~ぅ!」 「お、その笑顔最高だな~。楽しいか?そうかそうか!」  ぅふふ、たのし……って、ちっがぁあああう!!斎さんのあやしスキルが怖いっ!!こんなことしてる場合じゃないのに勝手に笑っちゃうっ!!くっ!あやされて思わず赤ちゃんみたいな反応しちゃう自分が嫌だ!でも、でも……超楽しいっ……!  ふぇぇええん!しっかりしてよ俺ぇえええ!笑ってる場合じゃないんだってばぁあああ! 「なんかさっきから笑ったり暴れたり泣いたり情緒が忙しいな。雪ちゃん大丈夫か?」  ぜんぜんだいじょばないですぅぅぅ!! 「どした~?ナツじゃねぇからイヤか~?」  ……あれ?そういえば、なんでこんなに騒いでるのに夏樹さん起きて来ないんですか? 「あ~ちゅぅ~!ん~~っぱ!!」  って、なんで全然違う言葉になるのぉ!? 「お?今ナツって言ったのか?スゴイスゴイ、お喋り上手だなぁ~!……あ~、可愛い!マジ癒される~……雪ちゃんも一ヶ月くらいこのままでいてほしいな~」  斎が雪夜をあやしながらポツリと呟いた。 「ぅにゃ?」  え、い、一ヶ月ぅ~!? 「……なんてな!あ、心配しなくてもちゃんと今日お祓いしてもらうからな。なんせ雪ちゃんがこの状態だって知ったらみんなで取り合いになりそうだしな、ハハハ」 「おい、おまえばっかりズルいぞ!俺にも抱っこさせてくれよ!あ、これミルクな」  急に現れた浩二が、斎の頬に哺乳瓶を押し付けてきた。 「雪ちゃ~ん、浩二お兄さんですよ~!」 「おまえ、絶対に高い高いすんなよ!?」 「わ~かってるって!ナツの時に散々言われたからさすがにしねぇよ!ほらほら、おいで~?ベロベロバァ~!」 「……っ!?」  ふたりの会話から浩二の高い高いの威力を思い出した雪夜は、浩二に抱っこされた瞬間思わず固まった。  ココココージサン……タカイタカイ……コワイ!!   「……おい、俺が抱っこした途端に雪ちゃん元気なくなったぞ?なんでだ?プルプルしてるけど寒いのか?」 「本能的に身の危険を感じてるんじゃね?」 「どういう意味だよ!?」 「だってほら、おまえ抱っこ下手だし……」 「そんなこたぁ~ねぇよ!……と言いたいが、ナツよりもふにゃふにゃだからたしかに加減が難しいな。ちょっと力入れたら潰しちゃいそうで……なんつーか、餅みてぇだなぁ。どうやって抱っこすりゃいいんだ?え~と……こうか?よいしょっと……」 「ピャッ!?――」  え、浩二さん!?ま、待って!まさかの高い高いですか!?ムリムリムリム――……  浩二が抱っこをし直そうとしたのを高い高いされると勘違いした雪夜は、恐怖メーターが吹っ切れてブラックアウトした。 「あれ?雪ちゃん?お~い……もしかして寝ちゃったのか?」  雪夜が急にぐったりとなったので、浩二は慌てて顔を覗き込んだ。 「おまえの顔が怖くて気絶したんじゃね?」 「ええっ!?いやいや、そんなはず……え、ちょ、マジで?俺の顔そんなに怖いか!?雪ちゃあああん!?」 「はいはい、雪ちゃ~ん、斎お兄さんにおいで~……あ~あ、ダメだこりゃ。せっかくご機嫌だったのに~……まぁちょうどいいか。このままお祓いするぞ」 「いやいや待てよ!俺まだ雪ちゃんと写真撮ってない!!雪ちゃん起きてぇえええ!!」 「起こそうとすんなバカタレ!お祓いしてもすぐに元に戻るわけじゃねぇんだから、後で撮ればいいだろ?ほらおまえは早く月雲(つくも)さんたち呼んで来い!」 「くそぉ~~!!!――」   ***

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