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Act.6想い-2
「ただいま」
「お、おかえり……」
帰宅一番に大地を迎えてくれたのは優だった。
有貴に言われた事もあり、少し優の顔を見るのが照れくさかったが、それは優も同じなのだろう。返事はたどたどしいし、なかなか大地と目を合わさず下を見ていた。
「それ……どうしたの?」
手に持っていたペーパーバックを見て、少々重々しい空気だったのを優が壊してくれた。
「あぁ、これ帰りに寄ったからお土産」
「あ、ありがとう」
大地からペーパーバックを貰った優は、心なしか口元が緩んで嬉しそうにも見えた。一緒に暮らし始めてから知った事だが、優は意外にも甘い物が好きなようだ。お土産もどうやら喜んでくれたようなのでよかった。
「優君甘い物好きだもんね。アールグレーのスコーン美味しいから、後でばあちゃんと食べてね」
「うん」
着替えるために部屋へと向かった大地は、部屋に入るなり大きなため息を一つ漏らした。
「ふー……なんか照れくさいなぁ……」
まだ何も起こったわけでもないのに、何を意識しているのだろうかと思った。いつも通りにしていたらいいとは思っているが、昨夜の事があってか優の方が意識している様にも見える。
なんだか初々しい感じが学生のようだとも思ったが、自分も優もいい大人だ。意識してたどたどしくなる方がおかしいのではないかと考えた。
「なるべく普通にしよう……」
だが大地の中では、昨夜優が見せた熱情的な眼差しを、もう一度見てみたとも思ったのが本音だったりする。
それから夕食を済ませ風呂に入り、自室で仕事を少ししていると、部屋の襖がスッと開いた。
「優君?」
入って来たのは優だった。どうしたのか?首を傾げた大地に、優は顔を赤くしながら「あの……」と言ってきた。
「何?どうかしたの?」
「おやすみって言いに来ただけだから……」
「えっ?」
「おやすみ!」
それだけを告げて部屋を後にしようとした優の腕を大地は掴んだ。すると優は肩をビクリと大きく揺らした。
「まっ、待ってよ!」
「な、何だよ……」
「あ、いや……なんか優君大丈夫?」
「何が?」
どうして優を引きとめたのか、自分自身の行動が大地にはよくわからなかった。ただもう少し優と一緒にいたいと思っただけだが、この先の行動をどうしたらいいのか大地は困ってしまった。
「えっと……なんか様子おかしいから……」
「別に……何もない」
何もないと言うわりに優の顔は若干赤みかかっていた。そしてなかなか目を合わせてくれない。
これまで大地の方から「おやすみ」や「おはよう」などの挨拶をしてきたが、今日は優からしてきてくれた。それが嬉しくてこのまま別の部屋に行くのが惜しくなってきた。
とは言ってもこのまま引き留めても優を困らせるだけと思い、大地はそっと手を放した。
「そっか。なら風邪引かないようにね。おやすみ」
「えっ?あっ……」
何か言いたげで、悲しそうな顔をした優。
直ぐにでも出て行くかと思ったが、俯きながら何か言いたそうにしていた。大地はそんな優を急かしたりせず、言葉を放ってくれるまで待った。
「あの、さ……もう少し、大地と話したいんだけど、いいか?」
「あっ、うん。いいよ。中入って。お茶煎れてこようか?」
「いい……」
素直に部屋へと入った優は、所在なさげにちょこんと座った。
あぁ、優は自分の事を好きなのだな。っと一連の行動で実感した。部屋に入ったものの、口を開かず、顔は赤い。そんな優が可愛いと思えた。
「優君?」
「ご、ごめん!仕事中だっただろ?」
「まぁね。でもすぐ終わるから」
そう言って大地はパソコンを閉じて優と向かい合う形で座った。そんな大地に優は目線を逸らしている。
わかりにくいようでわかりやすい行動に、なんだかおかしくなってきた。
「ねぇ優君。今日何かあったの?」
「べ、別に何もないけど……理由がなきゃ来ちゃいけなかったか?」
「うぅん。僕は嬉しいよ。こうやって優君の方から僕の部屋に来てくれるの」
「ほ、本当に?」
「うん」
パッと花が咲いたような表情を見せた優がとても可愛いと思った。こういうのを世間ではツンデレと言うんだっけ?と大地は頭の中で考えた。切れ長の目が大きく開き、頬がほんのりと色づいていた。
あまりにも可愛い行動を見せる優に、大地の手がそっと頬に触れると、優は一瞬ビクッとした。
「な、何だよ……」
「別に深い意味とかないんだけど、今の優君見てると触れたくなった」
「へ、変な奴……」
口ではそう言っても、優は大地の手を払いのける事はしなかった。気持ちよさそうにその手に身を委ねる優が愛おしいと思う。
自分も優が好きなのだと実感した。ただ自分と似た境遇で、似ているからという理由が先だったが、今ではそんな優が愛おしい。これは友人や家族に対する感情ではないと感じた。
大地はスッと優に近づき、その唇にキスをしていた。
ただ触れるだけのキスに、優は目を点にさせて固まった。
「なっ……えっ?」
「ご、ごめん……なんか優君見てたらキスしたくなって……嫌だった?」
自分でも何をしているのか、好きなら好きと言えばいいのではないかと思ったが、それよりも先に謝罪の言葉が出てしまった。だが優は顔を赤くし、少し俯いただけだった。
「い、嫌じゃない……」
「うん……」
見ていたらわかる。大地は空いていたもう一方の手も優の頬に添え、上を向かせてもう一度キスをした。優は委ねるように目を閉じた。
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