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はじまり
それは、なかなかに最低な出会い方だった。
「千景ぇ(ちかげ)、お前 今フリーだったよね? 俺の3番さんあげる」
その人――真下先輩には、日替わりの恋人がいる、なんて噂があった。
先輩の容姿なら、恋人も取っ替え引っ替えだろうし、そんな噂を立てられるのもまぁ納得出来るよなぁ、なんて。俺はその時まで思っていた。
「……………はぁ?」
だから、反応が遅れた。
さんばんさん、って何? 名前?
え、めっちゃ変わった名前。
ってか、あげるって何? どういうこと?
「『はぁ?』じゃなくてぇ、今フリーっしょ? 俺の3番目の恋人あげるよ」
「…さん、ばんめ…?」
「そ、3番目ぇ」
3番目の恋人…?
「え、先輩 付き合ってる人 何人いるんですか?」
「えー? 6人だよー? 月曜日から土曜日
まで別の子と過ごしてんの。で、日曜日は一人ずつ順番でねー。これがさぁ、結構大変なんだよねー」
けろっと言ってるけど…え、あの噂マジだったんだ。
「いや、待ってくださいよ。そんなのその3番目の人が嫌がりますって。人ですよ? ゲーム機とかじゃないんだから」
先輩ほどの目が覚めるような容姿をお持ちならまだしも、俺わりとフツーだし。先輩ほどの目が覚めるような容姿をお持ちの方と付き合うくらいの人だから、さぞかし綺麗な人なんだろうな、って想像できるし。
可哀想じゃん! 3番目の人が!
「そもそも先輩だって惚れて付き合ったんでしょ? 好きになった人を『あげる』とか言っちゃダメですよ」
「千景 マジメだねぇー」
「いや、茶化さんでください」
っつーか先輩の友達も止めろよな。笑ってんなよ。
「大丈夫だよー。3番さんにも話してあるしぃ」
「はぁ?」
いや、最低だな。本人には言えないけど。
ってか名前呼んでやれよ。
「どう考えても全然大丈夫な感じしないですけど」
至ってフツーの俺が、何でこんなキラキラした先輩とつるんでるかって、そんなの簡単。中学が一緒で、部活も一緒で、先輩が気に入ってくれて、偶然同じ高校に入ったからちょいちょい声かけてくれてるだけ。それだけの関係。
歯に衣着せぬ物言いが気に入った、って、生意気な俺を気まぐれにそばに置いてるだけ。
「千景クン、好きな人いんの?」
真下先輩の友人――谷口先輩が、ニヤニヤ笑いで俺に声をかける。俺この人苦手なんだよな。表面上は上手く付き合ってるけど。
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