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第35話
「万谷くんって、竹を割ったようなそういう感じの性格だから……えっと…その…、お、穏やかな人と、合う…かも、ね」
「そう、そうですかね!?」
慣れないことするから変な緊張してやばい。手汗…!
もっと度胸あれば、ここで『それなら先輩、俺と付き合いませんか?』の一言も言えるんですけどねぇぇ!! ねぇよ度胸!! そこまでの度胸ねぇよ!!
「……っあ、あの、」
先輩が何か言いかけた時、後ろから声がした。
「清瀬」
聞き覚えのある声。
振り返ればそこにいたのは。
「シノくん……」
シノギダ先輩。
そこで、『あ』って気付く。
俺、清瀬先輩とはもうかかわりないとか前に言ったんだった。
「こんにちは、先輩」
ちょっと気まずい。とか思いながら挨拶をする。
「こんにちは」
うへぇ。目が笑ってない。
「どうしたの? シノくん」
「特に用はないんだ。ただ、2人が見えたから声をかけただけだ。邪魔だったか?」
最後は俺に向かって。
「いいえ」
なので俺は首を振る。
「…仲がいいんだな」
どことなく含みのある言い方。に、聞こえてしまうのは俺に後ろめたさがあるからなのか。
「羨ましい、の?」
清瀬先輩、それはきっと見当違いです。
「清瀬先輩のこと心配してるんですよね」
俺が振ると、シノギダ先輩は「そうだな」って苦い表情を浮かべた。
…これはあれだ。俺が土曜日一緒に出掛ける約束とりつけたなんて知られたら、処刑されるやつだ。
「心配、って…万谷くんは律儀で優しくていい人だって言ったじゃん。……涼輔とは違うよ」
ちく、と胸が痛んだのは、真下先輩の名前が出たから。
「そんなの分からないだろう」
「っ、分からないって…」
清瀬先輩がムッとしたように眉根をぎゅっと寄せた。そんな表情も、綺麗だと思う。
「俺と真下先輩、それなりに仲よかったから。シノギダ先輩の気持ちも分かりますよ」
「万谷くん…」
「けど、俺は真下先輩じゃないんで」
そう言って、挑むような気持ちでシノギダ先輩を見上げる。
悔しいな。この人を見上げるのも、清瀬先輩の隣にいるのをよく思われないことも。
同じ『幼なじみ』でも、八月朔日先輩とは全然違う。当たり前か。
「真下とつるんで、清瀬のことを笑い者にしようとしているんじゃないだろうな」
「っ、そんなことするかよッ!!」
「シノくんっ!!」
俺の怒号と、清瀬先輩の声が重なった。
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