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第65話
と、思っていたら日誌片手にチカちゃんが教室に入ってきた。日誌は自分のクラスに置いてきなよ。
「おはよー、チカちゃん」
「そこ、八月朔日の席じゃないだろ」
「おはようっつってんだけど」
「あぁ、おはよう」
まずそれが先じゃんね。
「チカちゃん、ちょうどいいからこっち来て。すぐ。今すぐ。ヘイ、急いで」
「何なんだそのテンション」
俺にはすげーめんどくさそうなの隠さないじゃん。
「すいちゃんが話したいことがあるんだって」
「すぐ行こう」
「態度の差」
うんまぁ、俺も人のことは言えないけどね。
「で、どうした?」
「ちょっ、デカイ体で同じとこ座ろうとしないでくれる!?」
「うるさいな、八月朔日は」
「何こいつ」
今なら殴っても誰も俺を咎めまい。
何でこんなデカイ体で俺と同じ椅子に座ろうとしてくんの? 半ケツどころじゃないんですけど。1/3ケツなんですけど?
俺があからさまにすごい嫌そうな顔してやってんのに、しれっと無視しやがる。
何こいつ。
「ふたり仲良しだね」
すいちゃん違う。俺の顔よ~く見て。
「あの、シノくん」
「どうした」
「万谷くんのことなんだけどね」
「何かされたか?」
「ねぇ、チカちゃん黙って聞いて。ほんとそーゆうとこだよ」
べし、と厚い胸板を叩く。くそ、筋肉纏いやがって。
「嫌なことは何もされてない」
すいちゃんが静かに、だけどきっぱり言い切る。そんなすいちゃんにチカちゃんが小さく目を見張ったのが分かった。
「俺、万谷くんのこと、いいなって思ってる。人と比べちゃいけないけど、でも涼輔より誠実で、ちゃんと俺のこと見てくれる。たまに俺に甘すぎるな、って思うこともあるけど…一緒にいると、楽しいし、嬉しい。だから、シノくんにはちょっとだけ、何も言わないで見守っててもらいたい。…だめ?」
チカちゃんすげー複雑な表情してる。色んな感情がごちゃまぜになったような。
「…だめ、とは言いたくない、が…」
でもさー、チカちゃん。すいちゃんがこれだけ自分の意志ハッキリ言うのって初めてだよ?
クソの時は、ぐいぐい来られて押されてる感じだったし。
「どこがいいんだ…! あんなに普通なのに…!」
「万谷くんは嘘つかないから、一緒にいるとすごく安心する。シノくんから見たら普通なのかもしれないけど、俺にとっては誰よりカッコいいし、すごく素直な人だと思ってるよ」
「万谷くんがすいちゃんのことすごーく大事にしてるの、チカちゃんだって分かってるでしょ?」
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