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第81話
「…紹介してくれたの、涼輔でしょ」
「まぁそーだけど、さ」
何となく気持ちがザワザワするのは、俺が、真下先輩の瞳に揺れる熱に覚えがあるから。
――気づきたくなかった。
俺と同じ目で清瀬先輩を見てるなんて。
これ、さぁ。勝ち目とか、俺にある…?
そう思うのに、心の中で嫌だと叫ぶ自分がいる。
俺が、清瀬先輩を大事にしたい。笑わせたいし、絶対に泣かせたくない。
自分の言うこと素直に聞かないからって手離しておいて、今さら何なんだよ。って思ってしまう。
だけど。
清瀬先輩は、真下先輩に未練があって、自分だけじゃなくて淋しかったけど、それでも好きで。そんな想いに、俺は…勝てるんだろうか。
「俺たち、寄るところあるから、行くね。じゃあ」
清瀬先輩はそう言って、俺の手を取った。
「帰ろう、万谷くん」
「あ…、え」
いいんですか? って言おうと思ったのに何も言えなかった。俺が、清瀬先輩を独り占めしたいと思ってしまったから。
好きだ。清瀬先輩が、好きだ。誰にも譲りたくない。だけど、先輩が好きなのは誰かを知るのが怖い。
「びっくりした、ね」
「そうですね」
平静を装ったけど、上手くできたか分からない。ただ、声が震えていないといい。
「あの、本…拾ってくれてありがとうございます。昼間も言ったけど5冊あるんで、重かったら次は減らして持ってきます」
「ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ減らしてもらってもいい?」
「もちろん。3冊くらいがいいっすか? それか2冊か」
2冊の方が、その分多く会えるよな。なんて、ずるいことを考える。
「んー…2冊、かな」
「じゃあそうしますね。今日も減らしますか? 教室に置いてけばいいし」
「いいの?」
「いいっすよ。あ、そしたら教室寄らせてください」
「うん。ごめん、こっちまで来てもらったのに。先に言えばよかったね」
「俺はその分先輩といられるんで、全然構わないっすよ」
「……万谷くんって」
「はい…?」
先輩が、何でかちょっと拗ねたような表情で俺を見ている。そんな幼い表情するのも愛おしい。もっともっと、先輩の色んな表情が見たい。
本当は、誰よりも一番近くで。
「いつもそういうことさらっと言う…」
「え?」
「…俺の気持ち、知ってて言ってる?」
「んぇ??」
「……そんなわけないかぁ」
「せ、先輩?」
え、俺は何かお気に召さないことを…やらかしました…?
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