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プロローグ 『手折る』『手折られる』
『手折る』『手折られる』
手で折ると書いて『たおる』と読む。
意味は道具を使わないで手で花や枝を折る事、もう一つの意味は女性をわがものにする事。
この言葉を思い出す度に俺の体が震える。
嫌な震えではない、どうしても欲しかったモノに対して起きる恋慕の震えだ。
俺は結城友也、東京で大手企業のシステム保守管理を仕事としている。
26歳、真面目に働いていたら人手不足もあって主任になった。
肩書がついたら付いたでやる事は増えただけ、忙しいだけの日々を送っている。
三日前、ラインが入った。
田舎の高校時代の友人三田遼太から、『離婚した』と入っていた。
どうしても会いたくなった。
会ってセックスしたいと思った。
そして、俺は今、心のままに、新宿発の夜行バスに乗っている。
季節はもう初冬、東京がこれだけ肌寒いということは、北にある田舎は雪がチラついているかもしれない。
年末年始の帰省シーズンではない今、田舎へ戻るバスの車内は空席が目立つ。
ここ数年、田舎には戻っていない、戻る必要もなかった。俺はもう故郷など必要としていない。
車窓から見える新宿の巨大ビル群が無機質な輝きを放ちとても落ち着く。
俺の事など誰も知らない、知ろうともしない、この東京が俺は好きだ。
陰鬱な思い出しかない故郷へ向かおうとするバス、気持ちが塞ぐ。
塞ぎながらも、遼太に会えると思うと心が浮き立つ。
バスの揺れに眠気を感じながら、昔に思いを馳せた。
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