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第35話 バレンタイン⑤ 呪われたカード
「もう、いいって…、ねぇっ!」
茶髪だか金髪なのかよく分からない遼太のもふもふした髪を掴みあげた。
長い、なんだかよく分からないほど長い、唇へのキスも何もない胸も十分に触ったし舐めただろう、もう十分。
遼太の垂れた目と目が合うと、今度は首筋をガブガブと甘噛みを始めてきた、どうしてくれよう。
なんかヤる気ないのかな?
まあ、元気ない時もあるよな?
いや、遼太に限ってそんなことは、貴重な肉食男子なのだから。
俺を椅子に座らせたままで、何をどうする気なのだろう?
覆いかぶさるようにしてガブガブ噛まれながら、ホントに元気ないのかな?と指で突っついてみたら「エッチ!」とか言って股間を抑えるし、どうした?さっき食べたチョコに毒でも入っていた?
挙動不審過ぎで逆に心配、座る俺の膝に頭を載せて来た遼太、もふついた髪に指を埋めて聞いてみた。
「からかってるなら帰るけど、どうした?」
「…昼間、モテてただろ?女の子にさ。」
「たまに…、暗くて大人しいヤツが好きっていう女の子が現れるだけだよ。」
「暗くて大人しいヤツっていいよな、それは俺も分かるんだけどさ。」
褒められてるんだか貶されているのだか分からない、暗くて大人しいヤツ、自分で言っておいて若干傷つく、まあ事実なんだけど。
遼太は騒がしくてノリが良い仲間に囲まれているから、たまには俺みたいなムッツリしたヤツが新鮮なのかな。
家庭が不幸そうだし保護欲が掻き立てられると言うか…、ああ、自己分析がキツイ。
悶々としていると遼太が顔を上げて聞いてきた。
「ところでさ、友也はチョコ買ったのか?」
「買ってない。」
「買えよ。」
「なんで?」
「バレンタインだから。」
「なんで?」
「俺に渡せよ。」
「なんで?」
「バレンタインだから。」
「なんで?」と「バレンタインだから。」が暫く繰り返されて、男同士だからバレンタインは不要と思ってたが、それでもチョコは必須なのかと悟り始めた。
遼太が欲しがってるのなら、寒いけど近くのコンビニでも行くしかない、シャツのボタンを閉じながら好みを聞いてみた。
「買ってくる、今すぐ買ってくる、豆が入っているヤツが良いんだろ?」
「なんでもいいけど、カードも入れてくれ。」
「カード?」
「なんか一言書くヤツ。」
「なんで?」
「なんか書くものだろ?」
面倒だな?何を書こうか?「いつも大変お世話になっております。」とか書いたら変な意味が出ちゃうような?
とりあえず珍しく遼太が病んでいる、「すぐ買って来るから!」と言ってコートを羽織って学校を飛び出した。
―30分後――
メッセージカード付きのチョコを見つけて買ってきた、急いで帰って来たから息が切れている。
走りながらメッセージを考えた、さほど大きくないメッセージカード、10文字くらいしか書けなさそう。
分かりやすく「好きです」とか「愛してます」とか書くのが一般的なんだろうけど、色々とヤっておいて今更?
今更だけど俺って遼太に「好き」とか「愛している」とかを面と向かって言った記憶が無い、言ったかな?
ハッキリ覚えているのは「手折られたい」と変なコトを言ったこと。
生徒会室に戻ると遼太が作業テーブルに寝そべりながらチョコをパクついている。
「買ってきたけど。」と言うと身を起こして顔を輝かせて「なんて書いたんだ?」と聞いてくる。
何も書いてはいない、白紙のまま、なんて書くのが正しいのか、モテる人の見解を聞いてみた。
「なんて書けば良いと思う?」
「俺に聞くことか?」
「まあ、一般的に2択で「好きです」と「愛してます」のどちらかだと思うのだが、どちからが正しいかな?」
「じゃあ、「好き」で頼む。」
「分かった。」
作業テーブルを挟んで向かい合う俺達、異様な緊張感が走る。
ボールペンを握り「好き」と大きく書こうとした瞬間に「小さく細かく、とにかくたくさん書いてくれ!」と遼太から不思議な注文が入り、指示に従った。
3cm×5cmほどのカードに呪われたか病んでいるのかが分からないほどビッシリと「好き」と書き、手渡すと垂れた目を細めて満足気な顔を見せたから、少し嬉しくなった。
来年も付き合っていたら、この経験を忘れないでバレンタインの日にはチョコを買って「好き」をビッシリ書こう。
こんなことで喜ぶなら、カードもハガキにサイズアップしてもいい。
外を見るとゴタゴタしていたから暗くなり始めている「今日は、帰るよ。」と言うと遼太が立ち上がって「好き」が書かれまくった呪われたカードを持って来て「これ、読んでくれない?」と手渡された。
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