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第1章 おにいちゃんズの陰謀

    第1章 おにいちゃんズの陰謀  父亡きあと、女手ひとつで育ててくれた母親が再婚した。  それが小沢空良(おざわそら)にとって、波乱に富んだ日々の始まりだった──。  海鵬(かいほう)学院高等部。  そう刻まれた真鍮(しんちゅう)のプレートが校門にはめ込まれている。煉瓦造りの門柱の、その両脇に桜の大木がそびえ立ち、ざっくり言うとザ・名門男子校だ。  小沢空良は真新しい制服姿で校門をくぐるなり、黒目がちの目を(みは)った。編入試験を受けに学院を訪れたさいも、別世界のような光景が広がるさまにびっくり仰天したものだが、そのとき以上に心臓がバクバクしだす。  うわぁ、鹿鳴館チックと、ふっくらした唇が紡ぐ。桜の花びらがはらはらと舞い落ちるもとでたたずむ姿は、春の妖精のようだ。  学校の公式サイトを抜粋すると「名建築家の辰野金吾氏に師事した××氏の設計による学び舎は(中略)うんぬんかんぬん──」。  瀟洒(しょうしゃ)で、レトロモダンな造りの校舎は、東棟、中央棟、西棟に分かれている。校舎群の背後で時計塔が静かに時を刻む。体育館とは別に講堂があり、音楽堂まであるというぐあいに、どこを切り取っても確実にインスタ映えする。  学校が丘の上に建っている関係で、だらだら坂をのぼってきた甲斐があった、と空良は思った。くふふ、と笑みがこぼれる。港の風景を一望できて、これからは毎日が遠足気分だ。一年生のときに通っていた高校が、狭い敷地にぎゅうぎゅう詰めだったのとは大違い。  わくわくすると目もきらきらと輝いて、ところが、 「とれぇな、置いてくぞ」  大和(やまと)という名にふさわしく、きりっとした顔立ちの少年に頭をこづかれた。 「待って、ちい兄ちゃん……」  と、いう呼び方にはまだ慣れなくて舌がもつれる。空良と大和は同級生だが、二月生まれと四月生まれだ。体格的にも制服がだぶついて見える空良にひきかえ、大和はタッパがあってアスリート体形だ。  大和の上に大学三年生の武流(たける)がいて、こちらは「おお兄ちゃん」。  空良の母・紗枝(さえ)と、おにいちゃんズの父・要造(ようぞう)が、子づれ再婚同士で式を挙げてから一ヶ月余り。空良と、おにいちゃんズの心理的な距離感は、ただいま特急列車でひと駅といったところだ。

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