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第一話:裏社会の片隅で

 眠らない街・新宿は、賑やかしい大通りの裏手にも飲み屋が連綿と続いている。  表側は流行り廃りが激しい。  地方の会社員が数年前に出張で飲みに来た店を訪れると、とっくに店が潰れて新しいクラブができているといったことが多々ある。  それに対して、裏通りにある店はどこもそこそこに歴史が長く、ほどほどに繁盛して長命だった。表通りとは違う時間が流れているように。  観光ゲイバー・【大冒険】もその新宿の裏側に店を構える老舗だ。  十余年ものあいだ毎夜十九時から開店し、古参も新参も関係なく受け入れている。  この店は男性同性愛者が出会いを求めて訪れる会員制のバーとは性質が異なるので、男女問わずたくさんの客が訪れている。  この【大冒険】を開いてこれまで盛り立ててきた名物ママは数年前から行方をくらましているのだが、後を引き継いだ新しい店主の経営手腕によって、店は変わらず繁盛していた。  「ミフユさ~ん! どうしよう!」  開店前の忙しい時間帯に「あっ」と声をあげたニューハーフのモモが、カウンター奥にある冷蔵庫を開けて店主を呼んだ。その呼びかけに応えて「はいはい?」とそそくさやって来た美貌の男が、くだんの名物ママにも引けをとらない新生・ママである。

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