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ミフユ、という源氏名で八年通してきている。
「冷蔵庫にあると思ってたおつまみがないんですけど」
「ええ?」
困り顔のモモが示した冷蔵庫は、確かに中身が空っぽだった。
「ウソぉ!?」
ミフユは高い声をあげると、指を反り返らせた手を口元に当てる。「あらあらあら」と小走りに駆け寄る姿はよくいる新宿のオネエだが、周りからはしばしば『じっとして黙っていれば俳優のよう』だと称賛される。職業柄美容には気を遣っているので、外見をほめられるのはミフユの誇りだ。
それはそうと、いくらスタッフの見目がよくてトークが冴えていようが、出す品物がなければ商売あがったりである。空っぽの冷蔵庫の前で腰をかがめたミフユは、おろおろしているモモの頬をつねった。
「あいたたた」
「昨日の店じまいしたのアンタね? どんなに酔ってても在庫点検はしときなさいって言ったでしょ」
「すみません!」
酒は用意できているが、いつもサイドメニューとして置いているスナックの類が足りない。そういったつまみ類も貴重な利益になっているので、売り逃すのは惜しい。ミフユは冷蔵庫の戸を閉じて、モモの肩を叩いた。
「もう。しばらくはお客さんが来てもはぐらかしとくから、急いで買ってきてちょうだい」
「はぁい」
「ダッシュ!」
後輩の背中を叩いて店を送り出したミフユは、三十分後に迫った開店にそなえて本格的な準備を始めた。店内の照明を調節し、カラオケの電源を入れる。
普段は他のスタッフにさせる開店準備だが、モモはさっきの通り買い出しに出かけたのと、他に出勤予定の二人は所用で開店ギリギリに出勤することになっている。
そのため、今日はミフユが一人で準備をする。仕事は多いが、八年やってきた作業なので手慣れたものだった。
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