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最後に、おそらく開店後すぐにやって来る常連客のおしぼりを用意して、汚れが残っている部分がないか店内をざっと見渡した。
古いビルの三階を借りて作られた、決して広いとは言えない店。
この店の本来の責任者であるママの代から経営しているので、年季の入った壁紙や調度品たちに囲まれている。アルコールと煙草のにおいがしみついた場末のスナック、ここがミフユの城だった。
二年ほど前にママにきまぐれに明け渡されたこの小さい城は、その面積からは想像がつかないほど重い存在感を放つ。
器の大きい前代店主のもと、何百、何千人もの人間が出入りしてきた場所だ。色んな人の垢に汚れて、何年分の思い出が染みついている。
薄暗い照明に紛れない派手な柄シャツを着て、三十路を目前にして赤っぽく染めた茶髪は緩くパーマを当てている。性質はおしゃべり好きのゲイ。そんなけったいな存在の自分には、ここはぴったりの場所だと思っている。
「さ、今日も楽しく頑張ろ!」
シャツの胸ポケットに入れていた丸いレンズのサングラスをかけて、ミフユは颯爽とカウンターを出た。
『CLOSED』になっている店の外の看板を裏返すために――。
軽い足取りで店の出入り口に立ちガチャリと扉を開けると、扉上部に付けられたベルがカラン、と明るい音を奏でた。その音を鳴らしたまま扉を開き切ろうとしたとき。
「キャアアアッ!」
「!?」
野太い悲鳴とともに、キャミを着た大柄の男が飛び込んできた。
「モモちゃん!?」
買い出しに出ていたモモだ。
手に提げた買い物袋を死守しようとして、大きく態勢を崩した。
「ま、待ってくださいお客さ――うおおお!!」
「ぎゃああ待ってヒールだからヤバッ……あああ!!」
よろめいたモモを咄嗟に支えている間に別の男たちも吹っ飛ばされてきて、続いてミフユの腕の中に飛び込んできた。彼らもモモと同様に煌びやかなドレスを身に着けている……【大冒険】のキャストのパピ江とキャメロンちゃんだった。
「どうしたのパピちゃん、メロンちゃんっ……お、重い! 早く立って!」
倒れ込んできた体をミフユが力の限り押し戻して、立たせてやると、吹っ飛んできた三人はひどく怯えた顔をしてミフユに縋りついてきた。青いラメのドレスを着たキャメロンが入口を指差す。
「ま、ママぁ! あああの人、店の前にいたからお客だと思って! 入れてあげようとしたんだけど……」
「急に『誰々はここにいるか』とか言い出して! 強引に突き飛ばして入ってきたのよぉ!」
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