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 震えるパピ江が言葉を継いで、事情を説明する。ミフユは混乱しながらも、とりあえず中に困った客が入ってくるのだと理解して、入口を見守った。  ドガシャン、と騒々しい音を立てて壁にぶつかった玄関扉が、反動で閉じようとすると、長い黒スーツの足がそれを阻んだ。  ドゴッ、と厚い扉を蹴飛ばしてこじ開けた男は、スーツのポケットに手を突っ込み、煙草を口に咥えたまま店に入ってきた。  「おう、邪魔するぞ。如月美冬(きさらぎみとう)はいるか」  無遠慮な客はドカドカと足音を立てて歩き、近付いてくる。従業員たちを庇うようにして前に立ったミフユは、招かれざる客にも笑顔を浮かべた。  「お客様、ウチはまだ開店準備中なのよ。用があるなら後でおうかがいしますから、一旦お引き取り願えます?」  「ア?」  ドスの効いた声に、鋭い目付き。  そしてぴっちりと後ろで固められたオールバックに、緩いバーの雰囲気の中では浮いた堅苦しいスーツやピカピカに磨き上げられた革靴を見れば、その男が堅気でないことは明らかだ。  年の頃はミフユとそう変わらない三十路手前といったところだが、年の割に貫禄があった。  睨みをきかされただけでヒイ、と後ろの三人が怯え上がるのが分かる。  この男がかなりの強者で、かつ裏社会の人間であることは確かだろう――というか、実際そうだった。  ミフユは知っていたのだ。 (クソ……ここまで嗅ぎ付けられるとは思わなかったわ。 ……気付くな。気付くなよ)  「もう一度だけ訊く。如月美冬はどこだ」  男が繰り返す。  「ここにいるんだろ? いるならすぐ連れてこい」  「……それはできかねます」  「なんだと?」 (連れてくるなんて無理なのよ)  なぜなら――――自分こそ、男の探している如月美冬本人だからである。

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