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この界隈ではめずらしくないことで、モリリンには身元引受人がいなかった。
そのために自分があらゆる手続きをしたのだが、担当医師からはあまり明るい話は聞けなかった。
「ケガは一ヶ月もすればよくなるけど、その後は薬物依存の治療ができる施設に入ることになるらしいの」
病室で昏々と眠っている彼女の顔が、脳裏に焼き付いている。
可愛くて歌が上手いからと先代のママが採用した子。
いつも明るく元気で、落ち込んだ様子などついぞ見せなかった。
「馬鹿な子ね……警察が部屋を調べたら、注射器や遺書を破り捨てたようなのがいくつも見つかったんだって」
あの姿は薬物に作られた偽りの姿だったのか。
「アタシの前でくらい、ジメジメした根暗ちゃんで居たってよかったのよ」
グスリと涙ぐむと、唖然とした顔で伊吹が呟いた。
「よその組のモヤシを『ジメジメし腐りやがってキノコ生やすのは股間の一本だけにしとけよ!』つってはり倒してた奴が何を言う」
「アンタね!!」
「感傷にくらい浸らせなさいよ!」と襟首を掴み上げていると。
バックルームから、高い声が聞こえてきた。
「あの。こんばんはぁ、ママ~」
「ん?」
現れたのは、クルクルと巻いた栗色の髪に色白な小顔が印象的な女性。……と、場所が違えば見誤りかねないが、彼女もまたこのバーのキャストだった。
「あらアキちゃん! もう出勤時間だっけ?」
清楚な装いで、ネタ系のオネエさんたちとはやや路線が違う彼女――アキに、ミフユは声のトーンも表情もパッと切り替えた。
「はい」
微笑を浮かべて、アキは黒のブラウスを整えながらカウンターに入る。持っている雰囲気が華やかで、ふわりと可憐な印象を与える。
「じゃ、あっちの席にポテト作ってもらおうかしら? さっそくだけどいい?」
「すぐ用意しますね」
鈴の鳴るような声で応える彼女に、客の空気が変わった。とくにサラリーマン層は目の色が違う。
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