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「アキちゃーん! 今日出勤だったんだぁ」
「そうなんです」
「いやあ嬉しいなぁ~! 今夜は一本入れちゃおうかなっ」
「やだぁ田中さん、キャメロンの時と態度違ぁう!」
ギャハハハ、と沸き起こる笑いを背に受けながら、アキは軽食の用意をする。
「へえ、バケモンばっかかと思ったけど毛色が違うのもいるんだな」
ぽそっと呟く伊吹に、ミフユは顰め面をする。
「失礼ね。埋めるわよ」
「ヤクザが出てんぞ」
ケッと笑う伊吹に腹が立ち、ミフユはダンッとビールグラスを叩きつける。
「なに、アキちゃんがお好み?」
レンチンですぐにポテトを作り、席まで運んでいく華奢な後ろ姿を見送りながら、伊吹は頬杖をつく。
「まぁな。ま、股についてる時点で好みもヘチマもねぇけど」
「セクシャリティに一切の迷いがない人間ってのも羨ましいわね」
「せくしゃりてぃ? ハラスメントだかなんだか言うやつか?」
ずれた返答をする彼に無頓着、と溜め息をつきながら、ミフユは空いたグラスに酒を注いでやる。
「『俺は男』『男だから女が好き』って断言して生きていける奴は幸せね、って話」
「はあ?」
きょとんとして、伊吹はミフユを指差してくる。
「お前だってそうだろ? 女抱いてたし。見た目は普通に男だし。ちょっと変だけど」
「あのね……」
性別グラデーション論にとことん疎い彼にも分かるように、噛み砕いて説明しようとしたが、畳み掛けるように伊吹は喋り続けた。
「如月は、あそこのオカマ連中とは違ぇだろ」
――――バリンッ!
その言葉が出たとき、ミフユが握っていた分厚いガラスのボトルが粉々に潰された。
『!?』
凄まじい音が鳴り、周囲の視線が一斉に集まる。
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