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今時の俳優系の甘い顔立ちに、完璧にセットされた明るい髪。
今日はハイブランドの私服姿だったが、その華々しさですぐ遥斗だと分かった。
ホストクラブ【EDEN】のオーナー兼ナンバーワン――
――そしてミフユと伊吹に薬を盛った可能性がもっとも濃厚な、要注意人物だ。
(まさか向こうから攻め込んでくるなんて……!)
一見物腰の柔らかい男とはいえ、敵と繋がっている恐れがある以上は油断できない。
(せめて伊吹ちゃんがいてくれれば……。どうすればいい?)
不意を突かれて固まっていると。
桁外れな美形が、パッと笑顔を浮かべた。
「そうです。僕のことをご存知で?」
「えっ?」
意外そうな顔で尋ねられたミフユは、自分もぽかんとした。
だってこの言い方じゃ、
(……気付かれて、ない?)
あんなに店の前で騒いで傍迷惑クレーマー演じたってのに!?
と驚愕したところで、はっと思い出した。
潜入作戦のときは女装にグラサンだったことを。
今は男装のうえ、あいにくグラサンはキャメロンに没収されている。というか、こういうときのための変装だったのだ。
(メロンちゃん、ナイスだわ……!)
「いえ、まあ、遥斗って言ったら有名人じゃないの! ねえ、うふふふ」
クラブにいた『ユキコ』とは完全な別人になることに成功し、その功労者であるキャメロンに感謝しながら、笑って誤魔化した。
「ありがたいことです」
微笑む遥斗にうやうやしく一礼されるが、ふと疑問が浮かぶ。
遥斗が、ミフユの正体に気付いていないのなら。
「だけど、歌舞伎町の一流ホストさんがこんな場末のバーに何のご用かしら?」
一体なぜこんなところにいるんだろうか?
尋ねると、遥斗は顔を上げて答えた。
「用というか、ただの一般客として訪れたんです。ご迷惑でなければ、ここでお酒を頂いても?」
ゲイバー【大冒険】はお客の性別・職業問わず、もちろんホストだって歓迎する。
しかし彼のようなトップクラスの人間が仲間も連れずに一人で来るとは、不思議だ。
そう思いながらも、ミフユは頷いた。
「ああ――いいわよ。もうまもなく開店時間だし」
遥斗を迎え入れながら、こっそりと息を吐いた。
(これはむしろ、伊吹ちゃんがいなくてよかったな。鉢合わせるのはまずそう……。あの子はたぶん、顔が割れてるから)
なにせ伊吹の方は、あの雑な女装である。
(このごろ伊吹ちゃんの足が店から遠のいてるのが、こんなことで幸いするとは……)
遥斗に対する疑念は抱きつつ、それをおくびにも出さずにミフユは営業スマイルを見せた。
「ようこそ大冒険へ! いらっしゃいませぇ」
「ありがとうございます」
遥斗の方も完璧な笑顔を浮かべて、そつのない身のこなしで席まで歩いていく。
来店した客の正体に気付くと、キャストの皆が黄色い歓声を上げた。
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