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しばらく呆気にとられていたミフユだが、はっとして、群がるキャストたちを散らばらせた。
「はいはい、そこまで! 程々にしとかないと馬に蹴られるわよ」
キャメロンたちを押しのけてから、アキと遥斗の二人を振り返る。
「まったく騒がしい子たちね……ごめんね、二人とも」
そんな、と苦笑するアキたちをカウンター席の端に案内する。
「じゃ、アキちゃんは彼に付いて」
そう言うと、アキは「いいんですか?」と驚いた。
「どうせまだ他のお客さんいないし。
いいわよ、ゆっくりしてて。忙しくなってきたらぼちぼち手伝って」
アキは綻ぶような笑顔を浮かべて、ミフユにぺこぺこ頭を下げながら遥斗の隣に座った。
それを横目に見つつキッチンに戻ると、パピ江たちがすり寄ってくる。
「ママ、やっさしい~」
「アタシはいつでも優しいっての」
二人きりにされたアキたちは、さっそく楽しそうに語らっている。時折、遥斗の方がアキに何か内緒話を仕掛けては、小さな笑いを起こす。完全に二人の世界だ。
「可愛らしいこと」
ムフッと笑うキャメロンだったが、ふと浮かない顔をした。
「……でも、いいのかしら? ホストなんて……。
アキちゃん、かなりのぴゅあっぴゅあなのに」
モモが「やあねえ、嫉妬?」と軽口を叩く。
「お馬鹿、違うわよ。だって、あの人たちは恋愛 が仕事なわけじゃない?」
「けど彼今日はプライベートで来たわけでしょ? わざわざアキちゃんの顔見るために。ン億円プレーヤーのトップホストが、営業でそこまでするかな」
皆から不安そうな顔で見られて、ミフユはふぅ、と息をついた。
(アタシが一番心配だっての)
【EDEN】で起きた事の顛末を知っているぶん、手放しではアキのことを祝えない。
だが、証拠もなしに二人の仲を否定することは難しい。
それに――……。
(それでも、応援してやりたいわよ。あんなに幸せそうなアキちゃんを見たら)
「そりゃ、向こうはプロなんだから本当のところは知らないわよ。だけど――本物の恋の可能性だってあるじゃない」
自分で話しながら、百パーセント信じきれる心情でもなかったが。
「好きにさせてあげたらいいのよ。
子を育てる時にさ、“傷付かないように回り道して止めてやろう”ってのは親のエゴなのよ。
子が芯から自立するためには、壁にぶち当たって、傷付いても、自分で答えを見つけなきゃいけない。
親にできるのは、その子が本気で道を誤りそうになった時に全力でぶっ飛ばしてやることだけなの」
そうよ、と自分を納得させるために頷いて、アキと遥斗の姿を見つめる。
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