132 / 191

4−2

・・・  話を聞けば、狗山は伊吹と合流する予定があったらしい。  「ただ、兄貴がその前にミフユさんに会って事情を説明してから、あらためて連絡するっていうんで。  でもいつまで経ってもその連絡が来なくて」  「それでここまで迎えに来たってわけね」   とりあえずカウンターの席に通してやると、素直に腰かける。  「兄貴は今日まったく顔を出してないんですか」  「明け方に別れて、それっきりね。話があるってのも初耳よ」  「じゃ、“例の件”についても聞いてないんすね?」  「は?」  どういうことだ。  何か、自分の知らないところで話が進んでいる。  ミフユは隣の椅子に座り、腰を据えて狗山の話を聞くことにした。  「――水無月の件です。ヤベェ事が分かりました」  「なに……?」  キャメロンたちは空気を読んで離れた場所にいたが、狗山はもう一段声を落とす。  「水無月って、一体何がわかったの」  つられてこっちも抑えた声で訊ねると、彼は一呼吸おき、伊吹が伝えるはずだったらしい話を始めた。  「あの日、【EDEN】に乗り込んだときに射殺(ハジ)かれた男がいましたよね。  俺たちはあの男を長らく彩極組の水無月春悟だと言ってましたが――実際は別人だったんす」  「あ?」  意味が理解できなかった。  あの男は、伊吹が最初に写真を見せながら『これが水無月だ』と言っていたじゃないか。  ヒラ構成員から急速に力をつけて若頭に就任し、めきめき頭角を現してきている男だと。  年齢といい貫禄といい、いかにもそれらしい人物だった。  (それが別人?)  「俺たちの目の前でドタマぶち抜かれたあの男は、同組の竹下(たけした)大毅(だいき)っつう野郎です。  十数年前に懲役食らってて、そのとき取った指紋が死体と一致したらしくて」  「指紋が?」  「刑事から仕入れた情報なんで、間違いありません」  裏社会においては、身分詐称など珍しくはない。  とはいえ、組の若頭がまるきり別人だったというのは俄かに信じがたい。  (……でも、それが事実だとすれば話がすっきりまとまるんじゃない?)  伊吹に詰められて『俺じゃないのに』と泣き言を漏らしていた水無月……とされていた男。  本当に『俺じゃない』からあんな事を言った?  男――竹下がなにか喋ろうとした途中で撃ち殺されたのも、水無月の正体を明かそうとして口封じをされたと考えれば納得がいく。  あんな事件が起きて、いまだに彩極組が動きを見せないこともだ。  竹下を殺したのが組内部の人間だからじゃないのか。あるいは水無月自身がその犯人とも考えられる。  だとすれば、  「じゃ、本物の水無月は?」  奴はまだ、この世のどこかに居る。  ミフユと伊吹の目的そのもの――【禁じられた果実】を歌舞伎町に蔓延させた張本人が。  (……まだやれることがある)  失った手がかりをまた見つけ、緊迫した声で尋ねると――――  狗山は、話の核心を語った。  「本物の水無月春悟は、歌舞伎町でホストやってるって話です。  源氏名は――――  ――――【遥斗】」

ともだちにシェアしよう!