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 突如出てきた名前に、ミフユは愕然とした。  「遥斗って、【EDEN】の?」  確認のため問いかけると、狗山が頷いて「大胆な真似しやがる」と顔を顰めた。  「そいつです。尻尾が掴めないわけですよ、なにせ彩極の若頭本人がウチのシマに入り込んでたんですから」  「でも、いくらなんでも若すぎるんじゃ」  年齢を聞いたわけではないが、遥斗はせいぜいが二十代半ばほどに見えた。  優男風の見た目といい、とても大きな極道組織で若を張れるだけの器とは思えない。  しかし狗山は首を振って、ミフユの疑念を否定する。  「それだけ若作りが上手いってことでしょう。  資料によれば、三十はゆうに超えてます」  「とっ……年上」  絶句するミフユ。狗山は笑ってつけ加えた。  「女は化粧で化けるって言いますけど、今の時代男もしますからね。奴ほど稼いでりゃ整形って手もありますし」  それに、と笑みを引っ込め、低い声で続ける。  「【EDEN】の末端のやつらは何も知らないみてえですが、上層部じゃ有名だったらしいっす。あいつの堅気から外れた荒っぽさは」  「遥斗が?」  「たとえば、借金を抱えたホストがそのまま飛んだりすると、どうやってでもそいつを探し出してリンチまがいの制裁を加えるらしいです。その後は知り合いのヤクザに売るとか。  売られたホストがどんな目に遭うのかは想像したくもねぇですけどね」  伊吹と二人でクラブに潜入したとき、うやうやしく頭を下げたあの男が。  信じられないけれど、あの夜彼がクラブで自分たちに薬を盛り、殺すか厄介払いしようとしていたのは間違いない。  腹の底でそんなことを考えながらあの振る舞いをしていたのだと考えると、ひどい役者ぶりが窺えた。  「まさか、知り合いのヤクザって言うのが」  ミフユが続けて訊ねると、狗山が首を縦に振る。  「彩極組の連中ですね。知り合いもなにも、水無月が所属する組織そのものですよ。  【EDEN】の幹部も何人かは組員だって話ですから――彩極組は水無月を通して、鳳凰組の店を仕切ってたってわけです」  仕組みは分かったが、水無月や後ろにいる彩極組の思惑が見えない。  「そんなことをして何がしたいの?」

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