135 / 191
4−5
「しかし、兄貴と連絡がつかないのは困ったなあ。どこ行ったんだろ……」
「メロンちゃん、モモちゃん! ちょっと店空けるわよ!」
首を捻っている狗山を置いて、ミフユはさっと立ち上がった。
「えっ、姐さん!?」
「合点」「はいはい」
驚いている狗山に対し、キャメロンたちは軽く頷く。
「ちょ、そんな『買い物行ってくる』みたいなノリで――どこ行くんすか、姐さん!」
慌てて椅子から立ち上がった狗山だが、テーブルに引っかかってよろめく。体勢を崩してたたらを踏んでいる間に、ミフユは外に出ていた。
最後に外から半分だけ体を覗かせて、狗山を指差す。
「狗ちゃん!」
「い、狗ちゃん?」
「アンタは組の奴らに召集かけといて!
場所は――そうだな、とりあえず歌舞伎の組本部で。
連絡したらすぐ動けるように!」
それだけ指示を与えると、ミフユは身一つで店を飛び出した。
十九時近くになってすっかり暗くなった街は、徐々に活気を帯びてきている。
会社帰りに飲み屋を目指しているサラリーマンや、夜遊びに耽る学生たちの集団を掻き分けながらミフユは新宿をひた走った。
「うわっ! 痛ってぇなァこの野郎!」
「今急ぎなのっごめんなさいねええ!」
「ぐわああぁっ!」
ガラの悪い輩にぶつかって絡まれるのを即座に吹き飛ばしつつ、アキに電話をかけるが、案の定繋がらない。
舌を打ってスマホを仕舞うと、目の前に歌舞伎町一番街の赤いアーチがあった。
そのまま下を通って、大通りを進んでいく。
街の中心あたりに着くと、色とりどりの人工光がせめぎ合うクラブ乱立地帯が広がった。
その中でも燦然と輝く大看板を掲げているのが【EDEN】だ。
遥斗……水無月はここにいるはずだ。
(あの男は、間違いなくアキと伊吹の行方を知っている)
直感がそう告げている。
とにかく、店の前に立ったミフユは、狗山に連絡を取った。
「今から【EDEN】にカチコミかけるわ。
二十分経ってもアタシから電話がなければ、鳳凰組全員で来て。
あ、武器 は忘れないようにね! アタシ丸腰で来ちゃったわ」
電話の向こうで狗山は『ちょっと待ってください、話は分かりましたけどウチは親父の許可が要る――』とかなんとか喋っていたが、
「組長 か若頭 に伝えといて。
『いまから新宿【EDEN】で、八年ぶりに“オオトリ”がデケえ花火咲かすぞ』って。
そう如月が言ってた、と」
狗山はまだ何か言っていたが、気にせず通話を打ち切る。
スマホをズボンのポケットに突っ込むと、ミフユは頭上に堂々と掲げられたNo.1ホストの写真を睨み仰いで、入口に向かった。
「男一人、入店してもいい?」
前回と違い、ミフユは男装のままだ。
そしてこれも前のときと違って、扉の前にはホストが二人見張り番のように立っていた。年嵩の黒髪と、まだ学生かと思われる若い茶髪。
おもむろに声をかけてきた男に一瞬面食らった二人は、すぐに営業スマイルを作ってへこへこと腰を折った。
「すみません、ウチ今日臨時閉店になっちゃって」
黒髪のほうを向いたミフユは、
「あらそう」
にっこり笑って、
「ぐほぉっ!?」
男の肩を掴んで、鳩尾にヒザ蹴りを叩き込んだ。
ともだちにシェアしよう!