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 「えっ!?」  気を失ってバランスを崩した黒髪を支えると、若い方のホストがあわわと青くなる。  スマホを片手におろおろしている彼に先輩を押しつけて、手を振った。  「やっほ。トモちゃん」  反射的に先輩を抱き留めた茶髪は、ミフユの顔をまじまじと見る。  そして、はっと目を輝かせた。  「ユ――ユキコさん!?」  前回の潜入時に、真っ先に口説き落としてイタズラさせてもらった大学生ホストだ。  「な、なんでっ? 今日、男?」  「男モードのおれは嫌い?」  伸びている男を挟んでくすりと微笑いかけると、ホスト――トモキの頬がぽーっと染まっていく。  「き、嫌いじゃ……ないれす」  「そ? よかった」  黒髪は失神しているが、傍から見れば男三人が肩を寄せ合って話しているようにしか見えない。  しばらくは異変に気付かれないだろうと踏んで、ミフユはトモキの耳元に唇を寄せた。  「ね、臨時閉店ってどういうこと? 中どうなってるの」  ぎょっと目を見開いたトモキは、視線を右往左往させた。  「えっ? ええっと、俺もよく分かんねっすけど。なんかやべぇみたい」  「やばい?」  何がどうやばいのかと詰め寄ると、見るからに動揺してぶんぶんと首を振る。  「だだだ駄目です、これ以上はマジで駄目! 俺みたいな下っ端が喋っていいことじゃないんですっ」  「ねえ」  「はいっ!」  頬を撫でると、トモキはびくりと肩を震わせた。  仕事とミフユに板挟みにされて、見上げてくる目が潤んでいる。なだめるように眦を親指の腹で擦ると、瞳がとろんと蕩けた。  「小学生の妹がいるんでしょ?」  「はい……」  「中で起きてることを黙って見ていて、君はその子に胸を張っていられるの?」  潤んだ目が見開かれる。  返事は返ってこないが、その瞳が後ろめたさを表していた。  「おれを入れてくれたら、全部解決してあげる」  「けど……」  「君、この店辞めな。他にいいとこ紹介してやるよ。ちゃんと稼げるし」  「えぇ? でも」  頬を染めて視線をそらすトモキに、ぐっと顔を近付ける。  「ね、入れて?」  耳元で声を低め、甘く囁くと、トモキの眉が下がった。  「や、そんなぁ……」  「おねがい。……だめ?」  「ユキコさ」  「美冬でいいよ。おれの本名」  頬にちゅ、と唇を落とすと、すっかり赤くなった耳に軽く噛み付いた。  「ひっ」  「いつもは二丁目で店やってるから、困ったらミフユっていうのを訪ねておいで。ここが嫌になったらいつでも逃がしてやるから」  トモキは顔を真っ赤にして「はひ」とか細い声で頷いた。  「あの……中に、他のホストもいっぱいいます。  なんかヤクザみてーな人たくさん連れて、すごく危なそうなんで、気を付けてください」  「うん。ありがと」  入口が開いた。  トモキに心配そうに見送られながら、ミフユはEDEN店内に足を踏み入れた。

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