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「おい、誰だお前」
さっそく入口付近に立っていたボーイが眉を寄せる。
「今日は店閉めてるんだよ」
「ボーイのくせにたいそうな口の利き方ね。
遥斗はここにいるかしら? あの子に用事があるの」
「っお前、あのときのオカマ!?」
ミフユの正体に気付いたらしいボーイがハッと目を瞠る。
あの日、ミフユと伊吹を男だからと入店拒否しようとした店員だった。
「あら、誰のことかな。
……そんなことより遥斗はいるかって聞いてんの」
「答える義務はない。お前はここで死ぬからな」
ニヤリ、ととても堅気とは思えない笑みを浮かべたボーイが、懐に手を入れる。
ドスがミフユの目の前に突きつけられる――前に、男の顎にミフユの革靴の先がめり込んでいた。
「ぶごおっ!?」
のけ反った男が大きく腕を振って、地面に倒れていく。
それを聞きつけた他のホストたちが、次々とこちらに押し寄せてきた。
「おい、なんだ!?」
「アイツだ! 取り押さえろ!」
ヤクザとホストが入り乱れ、大勢押しかけてくる。
拳やナイフを振りかざして迫り来る大群に、ミフユはにぃっと歪んだ笑みを浮かべた。
「あらぁ、若い子ばっかりで幸せ。
幸せすぎて――ぶっ倒したくなっちゃう!!」
・・・
「う…………」
激しい頭痛に苛まれながら、伊吹は意識を取り戻した。
(クソ、やられた)
栓をされたように塞がった記憶を必死にたぐり寄せて、気を失う直前のことを思い出す。
(アキの奴、なんで)
視界はまだ暗く翳っている。
……と思ったが、そうじゃない。
(どこだ、ここは?)
頭がはっきりしてくると、自分が剥き出しのコンクリートに囲まれていることが分かった。
見たところビルの一フロアだが、建設途中で放棄されたまま朽ちてしまったような、殺風景な空間だった。
仕切りもなく、建物の基礎部分だけ取り残された、明らかに使われていない建物。
照明もなく暗いが、四方の壁に開いた窓もない穴から街の灯りが射し込んでくるので、自分の手元くらいは判別できた。
襲われたのは昼前だったが、いまは夜になっている。体の感覚からしてまだ一日は経っていない。
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