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・・・  「――ったく、数が多いってのっ」  次々と襲いかかってくるホストやヤクザを殴り、蹴り飛ばしながら、ミフユは店内に目を巡らせた。  「んもうっ、ハーレムは老後の楽しみにとっておきたいのに!」  求めてもいない男たちは山ほどいるのだが、肝心の伊吹の姿が見えない。  どころか、アキはおろか水無月の姿もなく、めあての人物が誰もいない状況だ。  (水無月たちは奥かしら?)  ホスト軍団による肉の壁をなぎ払いつつ、入口から少しずつ店の中へと進んでいくミフユだが、バックルームまではまだほど遠い。  「なんだコイツ!? 一人のくせにっ」  ウイスキー瓶を振りかざしてきたピンク髪の男にアッパーを()めて、ミフユは一つ息を吐いた。  「化物だ」と悲鳴を上げて逃げ出す者もいるが、ほとんどは元気に自分のもとへ襲いかかってくる。その胆力といい目力といい、素人が持つものではない。  (店のスタッフのほとんどに彩極組の息がかかってたってわけね、どうして前に来たとき気が付かなかったのかしら)  不思議に思うが、彼らは日頃それだけホストとしての顔を装えているということだろう。  (人ってコワイっ)  身震いするミフユの横から、アイスピックを持った男が飛びかかってくる。  「おらぁああ死ねやぁああ!!」  「繊細な乙女に向かってそんなこと言っちゃダメよぉおお!!」  「ぎゃああああ――!!」  ミフユは男のアイスピックを持った腕を手刀で挫き、そのまま奥のテーブルまで投げ飛ばす。  男は他数人を巻き添えにしながらふっ飛んでいき、けたたましい音をたてて卓に衝突した。  ミフユの周りに、だんだんと丸い穴が広がっていく。  一向に倒れる気配のないミフユを警戒してか。  つかのまの静止状態が訪れた。 ――だが、四面楚歌だ。  「もう、倒しても倒しても無限にイケメンが湧き出てくるんだから……いつもこれくらいモテたらいいのに」  こういう状況で軽口を叩くのは性分で、見た目ほどミフユに余裕はなくなってきていた。  狗山に電話をかけてから、とっくに二十分は過ぎている。援軍はまだ来ないようだが、組長と話をつけるのに手間取っているのかもしれない。  よく考えたら――ミフユが組にいたのは、もう何年も前の話だ。  その頃と同じ感覚で組を動かすのは無理があったんじゃないか、と今になって不安がよぎる。  うまく身を隠し続けるため、ずっと極道界の趨勢(すうせい)は把握していて、鳳凰組の幹部にほとんど入れ替わりがないことは知っている。  しかし、内部事情が全く変わっていないとは言い切れないし……そもそも。  (勝手に組を抜け出したアタシのわがままを、組長(オヤジ)たちが聞いてくれんのかな)  伊吹を助けるためとはいえ。  (つーかいま気付いたって遅いんだけど!!)  「お前、どこの組のモンや!」  好転しない状況に焦燥感を抱いていると、その場で一番年嵩の男が怒鳴った。  見たことのない顔だが、ミフユより年上に見えるので極道歴は長いのだろう。  「テメェら、こんななよっちい奴に負けてんじゃねぇぞお!」  男が発破をかけると、明らかに現場の士気が上がった。 ――まずい。  場の勢いに流されないように、ミフユも身を構えて声を張り上げた。

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