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 「伊吹!」  勢いよく扉を蹴り開けると、更衣室と化粧室がセットになったような部屋が広がっていた。  天井にホストクラブらしいシャンデリア型の照明が下がっていて、右手にドレッサー、左手にロッカーが並んでいる。  その間には何もなく、グレーのタイルカーペットが敷き詰められていた。  そこに水無月の姿はなく――もちろん、伊吹の姿もなかった。  その代わりに。  「ミフユさん」  部屋の中心に――アキが立っていた。  「……アキちゃん」  「思ったよりも早かったですね」  不思議と驚きはない。  遥斗の正体を聞いたときから、薄々こうなることを予想していたのだと思う。  アキはどこも拘束されていない自由な状態で立ち尽くしていた。  こうしてミフユが現れても落ち着き払っているところや、その思い詰めた表情を見て、彼女が自分の意思でここにいるのだということを悟った。  (……やられた)  もう他に部屋は残されていないはずなのに、ここにも伊吹たちはいない。  ならば、はじめから二人はEDENにいなかったのだろう。この店は囮だったのだ。  「伊吹ちゃんの居場所、知ってるわね」  尋ねると、アキは真顔で頷いた。  「はい。あの人を拉致したのは私ですから」  信じがたいが、ミフユのアパートを訪れた伊吹を、彼女ならば警戒心を抱かせずに襲うことができただろう。  「伊吹ちゃんはどこにいるの? 彩極組の本部?  そこには遥斗――水無月も一緒にいる?」  「知っているけど、それをミフユさんに教えることはできません」  アキは硬い表情で断言した。  「……はあ」  そっと額を抑えたミフユは、すっかり腹を決めているらしい彼女に確認する。  「遥斗がどんな男か。どんな事をやらかしてる奴なのかってことは、知ってるのね?」  「はい」  「ヤクザだってことも?」  アキはこくりと頷く。  (これくらいじゃ引き下がらないか)  まだ年若いアキのことだ。  それに、彼女にとってはこれが初めて手にした恋のはずだから、簡単に手放すなどありえないのは容易に想像がつく。  恋に燃える女ほどやっかいなものがないのは、ミフユはよく知っていた。  「でもいいの? あんたに、アタシや伊吹ちゃんに手を出すよう唆す男よ」  「……分かってます。自分でも馬鹿なことしてるって。でも――あの人を喜ばせなきゃ。私が断ったら、他の人にすぐ取って代わられるだけだ」

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