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 同じ新宿区区内で、EDENからは少し離れた場所になる。  そこに一つ、大きなビルが建っているという。  「表向きは廃ビルですが、実際には頻繁に彩極組関係の人の出入りがあるらしいです。  遥斗さんは、今回みたいなことを――他に知られたら困るようなことをするときに、そのビルを利用すると」  「そう言ってたのね?」  アキは確かに頷いて見せた。  「今回はどうか分かりません。私には何も知らされていないし……ただ、私に分かる場所と言えばそこくらいです」  「当たってみる価値はあるわね」  そう言うとミフユはひとつ息を吐いて、段々と疲労が溜まってきた腰を上げる。  そのまま部屋を後にしようとして、ふと動きを止めた。  力なく横たわったままのアキを振り返る。  「遥斗は、どうして伊吹ちゃんを攫ったりしたのかしら」  訊いたところでどうしようもないかもしれないが、口にせずにはいられなかった。  「――知られたからだと思います」  返事が返ってくるとは思わず、ミフユは驚いてアキを見つめた。  彼女はこちらには視線を向けずに、ひとりごちるように呟く。  「最近の彼は、すごく憔悴しきっていたというか。  問い詰めたら、渋々教えてくれましたけど……『遥斗』がヤクザの水無月春悟だって、身内以外の人間にばれてしまったと」  アキが遥斗の素性を明かされたのもこのときだったという。  「だから、誰がその事実を知っているのかを把握して、秘密を知る全員を消す必要があると息巻いてました。  師走さんは事情聴取するための存在で、それは別にあの人でなくてもよかったんです。  ただ、たまたま私が師走さんと面識があったから、攫うよう命令されて」  そこで、アキは苦いものを口にしたみたいに顔を顰めた。  それから「ごめんなさい」と謝る。伊吹を拉致したことについての謝罪かと思ったが、  「違うんです。元々は、ミフユさんを攫うように言われていました」  「アタシを?」  訊ねたが、すぐに納得がいった。  遥斗が一度【大冒険】を訪れたときに、ミフユとは顔を合わせている。  あのときあの男はまるで初見のような顔をしていたが、実のところ、ミフユが自分のクラブを襲った人間だと気付いていたのだ。  伊吹を捕らえるより、恋人が働いているバーのママの方がよほど捕まえやすいと見ただろう。  「だけど、私にはどうしても――ひどい目に遭うかもしれない所へあなたを連れて行くなんて、できなくて。  ママの部屋の近くで尻込みしていたら、そこへ師走さんが現れました」  「それであの子にターゲットを変えたってわけね。  確かに、伊吹ちゃんをさらったっていいんだもの……できるものならね」  それで、アキは伊吹を捕まえることができてしまった。  彼が捕らえられた理由は分かった。けれど、  「妙だわ。  薬の件は鳳凰組にばれてしまったんだから、彩極組はウチと全面抗争する方向にシフトすればいいのに。  そっちの方が『遥斗の正体を知る人間を片っ端から消してホストを続ける』なんて無茶よりも、よほど効率的じゃない」  いつかにも奇妙に感じたものだが、遥斗――水無月はとにかく効率が悪い。  なぜそこまで自分の素性を隠すことにこだわるのか。  「とてもじゃないけど、理屈に合う答えが浮かばないわ」  「理屈じゃないからじゃ」  ぽつりと零したアキに、「え?」と声を上げる。

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