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 激しい音が響き渡った。  一転、しんと静まり返ったバックルームに、二人分の荒い息だけが聞こえる。  アキは苦しげに呻いたが動き出せず――勝敗は決した。  「……そん、な……」  痛みで顔を顰めるアキの元に、ミフユが腰を下ろす。  「負けを認めるわね」  「私はっ」  「もう動けないでしょ?」  何か反論しかけた彼女は、唇を噛んで、視線を逸らした。 ――あまり時間がないことは分かっている。  けれど、先を急いても意味がないと踏んで、ミフユは静かに尋ねた。  「さあ――洗いざらい吐いてもらうわね。  遥斗は、あんたにここを託してどこに行ったの。  伊吹はあいつと一緒なの?」  「………………」  当然、アキを伸したからと言って彼女が素直に口を割るとは限らない。  黙秘を貫かれてしまえば、事態は振り出しに戻ったも同然になる。 ――だが。  「これ、使わなかったのね」  「!」  ミフユが小刀をかざすと、アキが驚いた顔をした。 『いつの間に』とでも言いたげにその武器を凝視している。  これは、アキと揉み合っている最中にミフユが彼女の服のポケットから抜いた代物だった。  「まさか自分で用意したんじゃないでしょうけど」  「……いざという時に使えと、組の人から渡されたんです」  答えが返ってきて、小さく舌を打つ。  こんな物で刺されたら、相手はタダじゃすまない。当然刺したアキも刑事責任を問われるレベルだ。  向こうからすれば、ここで敵を足止めできればアキの将来がどうなろうと構わないということだろう。  でも、実際の彼女はこれを脅しに使うことすらしなかった。  「そんな武器がなくても拳で充分だと思って、仕舞ったままでしたけど」  「……良かったわ。まだやり直す余地がありそうで」  そう答えると、アキは床に横たわったまま軽く目を瞠った。  「ここで刺されてたら、アタシは伊吹を助けに行けなくなってた。  それであの子にもしものことがあったら――あんたを拾ってやる自信がない」  「ミフユさん、一体何を……」  「ね、アキちゃん。今回のことが終わったら、またお店にいらっしゃい」  大きな瞳がじわじわと見開かれてゆき、零れ落ちそうになる。  「――話はまたそのときに、ゆっくりしましょう」  「そんな……もう私なんか」  「この話は後」  最後まで聞かず、ぴしゃりと遮る。  「とりあえず今は急いでるの。伊吹がどこにいるのかだけ教えて」  アキはミフユの顔を見上げた後で、何か言おうとして口を噤み――それから、ある住所を口にした。

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