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 話すうち、ミフユの心までが変質していく。  今の自分は、アキや店の仲間には絶対に向けないような表情をしているだろうと思う。変わった……というよりも、組を抜ける以前の自分に戻っていくようだった。  「逃げられるわけないんだよ。他でもない、自分そのものから」  そう口にして、ミフユ自身気付かされることがあった。  (――そうだ。逃げたって意味がなかったんだ……)  伊吹から逃げ出して、違う名を名乗って。一時だけ別人になりきれたとしても。  『ミフユ』の仮面が剥がれ落ちれば、やはりそこには美冬の顔があるのだ。  自分はいくら嘆こうが、美冬であることをやめられない。  知らないふりをしようとしても、伊吹を好きなことは、変えられない。  それに気付かずに逃げ出した時点で自分は間違っていたのだと――ミフユは今この瞬間、唐突に気付かされた。  やっと自分自身と向き合う覚悟ができたとも言い換えられるけれども――水無月は皮肉げな笑みを浮かべていた。  「馬鹿馬鹿しい……。  名を変え、時に顔を変えれば、それは別人に生まれ変わることと同義でしょう。  僕は、今のこの自分こそが本当の姿なんだと信じていますよ。  自身がそうだからと言って、勝手な理屈を押しつけないでもらいたい――如月の虚像が」  今の自分をかつての鳳凰組・如月美冬の残り(かす)だと嘲笑われても、ミフユは動じなかった。  「分からないかな」  同じく嘲笑で返して、伊吹と攻防を繰り広げている水無月に横から殴りかかった。  「それはおまえも同じだっつってんの。――外っ面だけゴテゴテ飾って中身空っぽの、ナルシスト野郎!」    拳がもろに水無月の顔にめり込むと、そこに憤怒の表情が刻まれた。  「っ僕の顔を」  言っている端から、今度は伊吹の拳が叩き込まれる。  「タコ殴りにしてやんよ」  伊吹はニヤリと笑い、次の一発を振りかぶった。 ――彼が手負いとはいえ、こちらは二人がかりだ。  水無月は飛び道具の類も持っていないようだし、ミフユたちに分があるだろうと踏んでいたのだが、  「水無月さん!」  「!!」  そこへ、彩極組の構成員が数人駆けてきた。  ミフユも通った非常階段から上がってきたらしい。  鳳凰組のほうもいくらか手勢を連れてきて、彼らには下の鎮圧を任せていたはずだが、何人かその網を抜けてきてしまったのだろう。  しかし武器は近距離戦向きのドスくらいしか所持していないらしく、それを持って勢いだけで突っ込んできた一人をミフユが蹴り倒した。  あとに他の二人が続いて腕にしがみついてくるも、ミフユはそれを赤子のように放り投げる。  伊吹の猛攻をいなしながらその様を見ていた水無月は、ため息をついて自分の手下に冷えた視線を向けた。  「何をやっているんだ、お前らは」  「す、すみません、水無月さん……!」

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