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第6話
「俺たちが別れた理由、覚えてねぇのか?」
直文にさらに付け加えられて、ますます動悸が激しくなる。
俺たちが別れた理由……それは圧倒的なコミュニケーション不足だった。
お互い仕事が忙しかったのを言い訳にして、これは美味しいのか、何が楽しくて何が気に入らないのか、いつの間にか伝えるのを忘れていたのだ。
そして別れるとなったときに、直文は言った。
『静瑠って、本当に俺の事好きだった?』
プライドが邪魔をして、大好きだったのに大好きだと言わなかった。
セックスの最中も、聞かれれば応えるけれど、自ら「気持ちいい」と伝えたことはなかった。
次の相手には、ちゃんと伝えよう。
春に出会った時、そう胸に刻みこんでいた筈なのに、思いの外ストレートに気持ちをぶつけてこられたので、驕 っていた。
両手から溢れんばかりの愛情を与えてもらい、ぶくぶく太った俺の心は満足して、恩返しをすることをしなかった。
直文は呆れたようにため息を吐く。
「どうせ、『春は言わなくても分かってもらえるタイプだから』とか決めつけてたんだろ」
「うっ」
「春くんに告白された時だって『あぁ』とか『よろしく』とか、適当に返事したんだろ。俺の時みたいに」
「うぅっ」
もうこれ以上、弾丸を撃ち込まないでほしい。
何もかも見透かされている。
ボッコボコにしてやるつもりが、俺がボッコボコにやられている。
「お前がそんな風だから、春くんだって不安になって俺に……」
「直ちゃん、もういいよ」
春は遮るように言って、もう一度俺の目の前に立った。
もうメソメソうじうじ泣いていた春はどこにもいない。
凛とした佇まいで、琥珀色の瞳に俺だけをしっかりと映し出している。
「しーちゃんが恥ずかしがり屋さんだっていうのは、出会った時から知ってたし、例え、しーちゃんが好きだとか愛してるとか言ってくれなくても、その気持ちはちゃんと伝わったよ。だって俺が浮気したって分かったら、烈火のごとく怒ってくれた。俺のことがどうでも良かったら、そんなことしないもん」
春は俺の背中に手を回して、力強く抱きしめた。
「『セックス、上手くなったな』って言って貰えたら嬉しいなって。だから俺、直ちゃんに頼んだんだ。色々聞けたよ。乳首は潰すんじゃなくてコリコリ派だとか、鈴口をしつこく引っ掻くといいとか」
「うるさいから、ちょっと黙って」
「しーちゃんが言葉に出さない分、俺がちゃんと伝えていくから大丈夫だよ。だからずっと、俺の傍にいてよ」
俺は宙に視線をさ迷わせた後に目を閉じ、春の肩口に唇を押し付けた。
「……しゅき」
子供みたいな言い方に余計に恥ずかしくなって、顔から耳まで一気に熱くなった。
春は素早く顔を上げ、目を丸くしながら俺の顔を覗き込む。
「えっ、嘘、しーちゃん、今好きって言ったの?!」
「……そうだよ! 好き好き好き! ほら、これでいいだろ?!」
やけっぱちに言うと、春の目にどんどん涙が溜まってくる。
「しーちゃん……しーちゃん! 大好きだよ。俺、今が一番幸せ。ずっと、しーちゃんの事を守っていくからね」
もう一度ぎゅうっと抱きしめられた際に耳元で「しーちゃん、Hしよ」と色っぽく囁かれ、胸がドキドキと鼓動し始めた。
俺はおずおずと首を縦に振る。
春は俺を軽々と横抱きにして、寝室の方へと連れていった。
とり残された直文の一言が、虚しく部屋に響く。
「俺……帰ってもいい?」
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