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コイヌ?
ここは山の中にある男子校。良いところのお坊ちゃん達ばかり。
そんな高校に通う俺は牧瀬 琴春(まきせ ことはる)2年生です。
憧れのジューンブライドを叶える為に結婚式を挙げた姉のために帰省し、1週間ぶりに登校した俺の横の席には、見知らぬ子が。
「やっと来たのか!俺、春宮 聖(はるみや こうき)!こうきって呼んでくれよな!お前は?」
「・・・・・・・・・」
ちょっと待て。初対面でお前?ここ一応、お坊ちゃんばかりで常識がズレてる奴は多いけど、高校だよな?あれ?幼稚園だったか?
「おい!無視すんなよ!名前教えろよ!」
右手首を掴まれて、馬鹿力で握ってるからドチャクソ痛い。
「牧瀬です。痛いから手を離してくれないかな?」
引き剥がそうとするけど、お、親指から離してやりたいのに、この野郎はずれねぇぇぇ!
「下の名前教えろよ!なぁ!」
「琴春だよ。手を離せって」
「琴春か!俺と同じ春が付いてるから、琴春と俺親友な!」
右手首を掴んだまま、ブンブン腕を振るから痛いし骨折れてんじゃ無いかな?周りのみんなは、ご愁傷様って顔してるし、おい待て吉永、手を合わせて拝むな!俺を生贄にするな!!
先生が来て授業が始まるも、俺に話しかけてくるせいで、先生の声が耳に入ってこない。
仕方ない。
「休み時間に話してやるからこれ食って黙ってろ。」
鞄から飴を取り出して、口に入れてやる。よし、黙ったな。先生グッジョブじゃない、親指を立てるな。
聖はノートに落書きをして遊んでる。何気にうまいな。いや、授業中に何してんだよ。良くこれでこの学校に入れたな。後で一発しばいてから吉永に聞くかぁ。
吉永から事情を聞くこともできずに、現在食堂にいます。聖のやつ俺を離さないからな。トイレにも付いてきやがったわ。
生徒会に囲まれて、邪魔だの、聖に近づくなだのよく分からない苦情をガンガン言われてる。
腹減ったのになぁ。生徒会って宇宙人だっけ?俺が付き纏われてると言っても話が通じない。
「とりあえず、時間無いので飯食いませんか?」
俺の腹虫、良い仕事した。盛大に悲鳴をあげたのを食堂にいる全員に聞かれても、この時ばかりは穴があったら入りたいとは思わなかった。視界の端に入った吉永が腹抱えて笑ってるのが見えた。吉永、五発しばく。
役職専用席に問答無用で連れて行かれ、俺と一緒なものを食べようと勝手に聖に注文された。明日は早起きしてお弁当にしようと明後日の方向を見ながら、おかずを考える。
「あぁ〜聖待て。小骨くらいは食え。ほらよ。」
さんまの塩焼きをグチャグチャし始めるから、背骨を抜いてやる。
「すごいな!めっちゃ食べやすい!」
「はいはい、よかったよかった。こっち向け、ご飯粒つけるな。大人しく綺麗に食えよ。」
本当に弟や妹と変わんないな。あれ?こいつ同じ歳だよな?
さんまうっま!やっぱり焼き魚はスダチだねぇ。小鉢の筑前煮もいい味してる。やっぱりここの飯はうまい。レンコン残すなよ。なんならレンコンがメインな所あるぞ。食感も味も匂いも美味いのに。
「レンコン残ってんぞ。苦手なのか?」
「泥臭いから無理!琴春にやる!」
「いちいち声がでかい。10席離して座るぞ?いいのか?次煩くすると、居なくなるからな。」
「だめだ!琴春と俺は親友だぞ!」
大声でうるさいので、席を立つ俺の手を掴んでくる聖を睨みつけ鼻先が付きそうなくらい顔を寄せて、地を這うような低い声で言ってやる。
「うるさいから席を離すと言ったよな?俺の声はお前の脳味噌に届いてるか?」
「き、聞こえた。と、隣に座って。」
ふぅ〜席に座り直してやるけどさぁ。何なんだこいつは。
「文句言わずに、出されたものくらい食べきれ。アレルギーじゃ無いなら作ってくれてる人の苦労を無駄にするな。」
残っていたレンコンを口に放り込んでやる。残したら許しませんで!!
「よし、食べれるじゃ無いか。えらいえらい。」
結局残さず食べれるんじゃ無いか。頭を撫でてやろうと手を伸ばしたが、変な髪型してたからやめた。食事も終わり教室に戻ると、吉永に笑顔で肩をポンポンと叩かれ、良くやったと頷かれ席に座りに行ったので、俺もついて行き、後頭部をスパーンとしばいといた。涙目で唸りながら睨んできたけど俺は悪く無い。
今日の授業も終わり、帰り支度中。聖は薄い鞄を持って、俺の右手を掴んでいる。
「まだカバンに入れ終わってないから離してくれ。」
「わかった。終わったら生徒会室に行くぞ。」
「なんで?俺は生徒会室に用事無いよ。」
「翔も樹もみんな待ってるから。琴春は俺と親友だから一緒に行くんだ。」
「はい、お待たせ。俺は行かないぞ?食材買いに行くし、晩飯と弁当のおかず作るから忙しいんだ。」
「お、俺と一緒に、生徒会に、行く。」
俺よりでかいくせに、泣きそうな顔で見るなよ。こう言う顔はめちゃくちゃ効くんだよ〜。
「はぁ〜買い物で荷物持ちしろよ〜。」
この顔されて拒否れるやつ居ないだろう。俺は無理。
みんな!きたぞおお!って叫びながら勢いよくドアを開けて生徒会室に入っていく聖。俺はすっと一歩後ろに下がって踵を返して階段を降り、ることなく、走って追いかけてきた聖に右手首を掴まれた。
「琴春〜!!一緒に行くって言ったのに、どこ行くんだよ!!」
胸ぐら掴んで、鼻がつくくらい顔を近づけて睨み上げながら地を這うような低い声で。
「俺はうるさい奴の隣にいたく無いって、言わなかったっけ?ドアを開ける前にノックして入って良いのか確認するのは常識では?」
「あっ・・うっ・・・。」
「何しているんですか!聖から離れてください!」
襟首掴まれて、床に投げつけられて、尻餅ついたわ。いてぇなぁ。
「貴方みたいな野蛮な人は聖に相応しく無いんです!本当に関わらないでください!聖大丈夫ですか?ほら、生徒会室に行ってお茶でも飲みましょう。」
優しく聖に声をかけているのは、副会長だったか。まぁ良いや。
「聖、俺に二度と近づくなよ。うわ、右手首真っ赤じゃん。尻餅つかされてけつもいてぇし。」
保健室寄って湿布もらうか。立ち上がってけつの埃叩くのも痛いわ。聖を見ると、え、泣いてる。
「うー。琴春と一緒にって言ったのに、ずっ、琴春と〜。」
あああああっ!!もう!なんなんだよ。
「あぁ〜泣かないで聖、こんな奴が居なくても俺が居ますからね。ほら泣き止んで。」
ハンカチで聖の涙を拭ってやってる副会長。
「聖、ほらおいで。」
両手広げて呼びかけてやると副会長の手を避けて俺の胸に飛び込んで、来れる訳もなく。
俺が聖の胸にすっぽりはまったのは体格差が有るから仕方ないわな。弟や妹なら腰に抱きつく位なのに。なんか悔しい。
俺の首にグリグリ頭をつけながら泣いてる聖は、まさに俺に叱られた弟と一緒だな。背中をポンポンとあやすように叩いてやると落ち着いてきたようだ。5時半のチャイムも鳴ったし帰らないと、色々と間に合わない。
「もう俺は帰るぞ。買い物に行くし腹減ったし。」
俺から離れた聖は変なカツラが外れて、染めては、無さそうなのか?サラサラ、ツヤツヤの栗色のストレートヘアーがお目見えしてた。カツラを拾うと大人しく頭を下げてくるので被せてやった。
「俺も一緒に帰る。」
「じゃあ、みんなにさよならって言ってこないと。」
んって頷いて俺の左手を恋人繋ぎで、恋人繋ぎ?ガッチリ繋がれてそのまま呆然としてる副会長を素通りして生徒会室のドアの前に連れて行かれた。ちゃんとノックしてるじゃないか。やれば出来る子だな。なんだよ、俺に褒められて嬉しそうにニコニコすんなよ。
生徒会の面々に入るよう促されるも、琴春と買い物に行くからと断ってる聖。
だから俺を睨むな、生徒会様達よ。なんだかんだで、結局買い物にみんなで行くことに。なんでだ?
「何作ろうかなぁ。時間無いけど魚食いたいしな。」
「俺肉食いたい。」
「じゃあ食堂行ってこい。俺は煮魚食いたい。」
「やだ、じゃあ煮魚でいい。」
「あれ?俺と食うの?」
「琴春と一緒にいたい。から。」
左手はずっと繋がれたままで、聖はかご持ちをしている。当たり前のように俺と飯を食うらしい。そんなにお金あったかな?あ、5000円持ってきてたわ。
「じゃあ僕も一緒に聖と食べる!」生徒会メンバー全員が俺も、俺もと言うけどさ。
「あのさ、そんな金もってないし、聖、食堂行けよみんなで。こんな人数の飯作れねぇよ。」
あの二人部屋にこの人数入れねぇよ。同室の吉永もびっくりするわ。あ、吉永みっけ。
「よっしー、今夜煮魚でいい?米あったっけ?」
シーって人差し指立てて、バイバイって手を振るってるからさ。
「よっしー二度と飯つくらねぇからな。」
速攻で俺の横にきた、吉永の後頭部をスパーンとしばいといた。
「いたい、米無かったので買いに来ました。煮魚で良いので、納豆もつけてください。」
後頭部をさすりながら、おねだりをしてくる吉永をスルーしてサバを手に取る。
「朝はホットケーキが良いです。」知らん。朝から手の込んだものを作る気がしない。
牛乳、卵、納豆と色々買い込んで、聖と吉永を荷物持ちにして寮に帰ってきた。そして生徒会メンバーも付いてきた。狭いですねとか文句言うなら帰ってくれ。
「聖、着替えるから手を離してくれ。」俺の部屋に入ってきてやっと手を離してくれたわ。
パーカーとスウェットに着替えてエプロンをつける。
「まじで3人分しか作らねぇぞ。よっしー風呂やってくれ。」はぁーいって風呂場に向かったよっしーを横目に煮魚をメインに夕食を作っていく。聖は俺の横でずっと俺の作業を見てる。腹減ってるのか?大人しいな。聖に途中味見をさせつつ、作り終えるとテーブルに運んでくれた。本当に自分たちの分がないとわかると生徒会メンバーはぶつぶつ言いながら帰って行った。まじで何なんだあのキラキラーズは。
カツラを外して、うまいうまいと言いながら食ってる聖はやはり育ちはいいのだろう、箸の使い方はめちゃくちゃ綺麗。さんまの食い方は汚かったけどな。聖の地毛を見て吉永はめっちゃ驚いてた。そんなにか?
今は、片付けも終わって、紅茶で一息中。姉の結婚式の引き出物で貰った茶葉が美味しそうで、楽しみにしてたんだよね。は〜うまい。
「聖は部屋どこなんだ?」
「ここが良い。琴春と一緒にいたい。」
「ここで3人はむりでーす。あきらめてくださーい。よっしー先風呂入る?」
よっしーはニコニコと俺と聖を見て居たが、風呂に入りに行った。
二人用のソファで恋人繋ぎで手を繋いで、寄り添うように座ってる俺と聖。
なんでこうなった?
「あ、ちょっと手離して。」
「いやだ。何するの?」
「手首痛いからみたい。」
うわぁ〜アザできてる。聖の力マジで馬鹿力じゃん。
「あ・・・・ごめん。痛いよね。ど、どうしよう。」
「あぁああ、泣くな。湿布貼って寝れば、すぐ治るよ。聖さ、力加減は本当に気を付けろよ。他の人怪我させたらダメなんだからな。」
ちゃんと目を見て言い聞かせる。両頬に手を添えて親指で涙を拭ってやる。力無く頷き俺の右手首のアザを見て、痛ましそうに目を細める聖。言えばちゃんとわかってくれる。可愛い弟や妹と一緒だ。
俺も風呂に入って寝たいので聖を部屋に送っていく。なんの差ですかねぇ?2人部屋なのに、俺の部屋の倍の大きさが無いか?家柄ですか?そうですか。高校からの外部入学生だからな、俺も吉永も。
「じゃあな、ちゃんと風呂入って暖かくして寝ろよ。同室は徳宮なのか。」
風呂上りで上半身裸の徳宮が、声がしたからだろう、覗きに来た。相変わらずの良い筋肉だ。
「あれ?琴ちゃんじゃん。やっと俺と付き合ってくれる気になった?」
「俺まだ死にたく無い。徳宮に近づいて本郷さんに殺されたくない。それより早く髪乾かせよ。風邪引くぞ。」
「あははは、それは大丈夫だと思うよ?うん、わかった。髪乾かして寝るよ。おやすみ。」
相変わらず軽いやつだな。そんな事言ってるの本郷さんにばれたらまた、ベッドの住人になるのに。わざと言って本郷さんの気持ちを測ってるんだろうなぁ。
「聖も早く風呂入って寝ろよ。おやすみ。」
「まだ離れたく無い。なぁ、俺のベッド2人で余裕で寝れるからさ、一緒に寝よう?」
「俺だってやる事残ってんだよ。それに寮の規則で人の部屋で寝泊りする事は許されてませーん。」
捨て犬のような顔してる聖には悪いが、気にせず自室に戻り弁当のおかずを作って風呂入って寝た。
朝飯食いながら吉永に聖の事を聞いた。俺が休んだ日に転校してきて、速攻で生徒会メンバーに気に入られたと。声はでかいわ、やりたい放題で物を壊すわ、授業妨害するわで、手を焼いていたらしい。ん?やっぱり幼稚園児かな?俺とは反対隣の席の大人しい町君が親友認定されて振り回されて、泣いていたらしい。
「さすがはこっちゃんだよね。俺を手懐けたみたいに、あの怪獣を手懐けるんだもん。尊敬する。」
「よっしーの時は同室だったしな。一匹狼気取ってたけど、ただの人見知りだったし。その辺は楽だったわ。」
「ちょっと待って!一匹狼気取って無いから!勝手に周りがそう言ってただけだから!」
ピンポーンと、呼び鈴がなったけど、こんな朝早く誰だ?
「琴春おはよう。一緒に朝ごはん食べに食堂行こう。」
聖かぁ〜朝から元気だな。カツラは被ったままなのか。蒸れないのか?
「あれ?片目茶色だぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってて!!」
右目が黒で左目が茶色の聖は慌ててどっか行った。聖追いかけていく生徒会メンバー。生徒会メンバーも居たのかよ。ご苦労様だな。
「こっちゃん、今の何だったの?」
「よくわからんが、朝飯誘われた。弁当持っていくなら詰めるがどうする?」
「俺は約束あるから食堂で食べるよ。」
「わかった。俺のだけ詰めるわ。」
食器を洗って片付けている間に、また聖が来た。よっしー聖と生徒会様達を部屋に入れるんじゃ無い。朝は忙しいのだ。
「琴春、朝ごはん一緒に」
「俺は食べたよ。俺は基本食堂使わないんだよ。美味しいけど高いし朝から食堂に行くのも面倒だしな。昨日はたまたま弁当を作れなかったから食堂に行っただけ。」
「お、俺も弁当欲しい!!あっ、欲しい。」
「それなら私が用意しますから。私と食べましょう。ね?」
副会長の一言に、そうしよう、それが良い、こいつが作ったものなんてダメです。と生徒会メンバーが言ってるけど、おい、高村会計さんよ。張っ倒すぞ。
「琴春のお弁当が良い。琴春のご飯美味しいし、琴春が食べたい。」
「んーまぁ良いか。よっしーの分余ってるしな。弁当代500円な。」
金取るのか、貧乏人が、ダメですよ、ってガヤガヤうるせぇな。石倉書記、お前は許さんぞ。
「金なら払う!!から、作って。ください。」
「ちゃんとお願いできんじゃん。良いよ、作ってあげる。」
一万渡されてもお釣りないぞ。ずっと作ってくれって、晩飯も?朝飯も?作れと?1人分増えても別に問題ないけどさ。
「あ、朝飯食ってこないと時間ないぞ?」
「琴春と一緒に居るから我慢する。」
「あーならちょっと座って待ってろ。聖の分くらいなら用意できる。コーヒー飲むのか?」
「あ、ありがとう。ブラックで良い。」
「聖はブラックか。俺はカフェオレだな。聖は甘いの苦手か?今朝ホットケーキだったからな。平気か?」
「コーヒー少しだけ牛乳を入れて欲しい。琴春が作るなら何でも良い。」
生徒会メンバーはまたぶつぶつ言いながら出て行った。朝から本当に元気だな。
聖に朝飯食わしてる間に制服に着替えて、先に出て行くよっしーを見送り鞄に弁当を入れて忘れ物が無いか確認する。
「そういや、授業中遊んでるけど、成績は大丈夫なのか?」
「ご馳走様でした。勉強わかんないんだよ。前の学校でもわかんなくて。気がついたらこの学校に入れられてた。」
「お粗末様でした。じゃあ一緒に勉強すっか。俺も復習になるし、迷惑じゃなけりゃ見るよ。」
「琴春と一緒にする!!あっ・・一緒にします。」
「あははは、声の大きさ気にしてんだな。まぁ、それくらいなら許せる範囲だから、大丈夫だよ。夕飯食った後にでも、するか?」
洗い物も済んだし、よっし、学校に行くか。
「うん!琴春と一緒に勉強する。」
おお、良い笑顔。可愛いなぁ。体はでかいけど。聖と手を繋いで、手を繋いで?一緒に教室に行くと全員がこっちを振り返って驚いている。なんだ?
俺たちの、俺たちの癒しが、俺たちのおかんが、とかなんか聞こえてるけど、何の話だ?
「琴春、どこ行くの?」
「ぐううううううっ!」
琴春が掴んだ右手首が、猛烈な痛みを訴えてきて、声にならない叫びが出た。慌てて離してくれた聖に抱き上げられ、お姫様抱っこですね、急いで保健室に連れて行かれて、そのまま聖のお家のお抱え運転手の送迎で病院に連れて行かれた。仕事の早さにビックリしたわ。
そして俺は今、右手首をガッチリと固定され動かせないので、甲斐甲斐しく聖にお弁当を食べさせてもらってる。痛いなぁとは思ってたんだけどね。まさかヒビが入ってるとは思わなかったよ。
俺の責任だって、悲痛な顔で俺が全部するから!って宣言されて、聖の部屋に連れてこられているわけです。まぁ、自分がした事に対して反省して居るなら良い事だ。
「ご馳走様でした。色々とありがとうな。飯が作れないから1万円返しておくよ。」
カバンから財布を取り出そうとすると、聖にカバンを取られた。
「い、いらない。治ったら作ってもらうから。それに」
ピンポーン。誰かが来たみたいで、急いで聖が見に行った。
10分しても戻ってこないし、ずーっと言い争ってる感じなんだよな。
覗き込むと、ダンディなおじ様と美女が居て、聖は俺がちゃんとするから!と言っている。やべ、おじ様と目があった。美形3人の圧よ。顔面偏差値が高い人たちって何でそんなに目ヂカラ強いかな?
「君は誰かな?」
「初めまして。牧瀬 琴春と言います。聖君とは同じクラスメイトです。」
頭を下げて挨拶しといた。何その、ほぅ〜って感心する感じ。美女が寄ってきて俺を上から下まで確認している。何でそんなに見られた?
「あなたなのね!今回は聖が怪我をさせたようで、ごめんなさいね。慰謝料もちゃんとお支払いしますから。今後、聖と関わらないように、あなたの転校の手続きもこちらでさせていただきます。」
「は?」
転校?慰謝料?ごめんなさいって言いながら、謝罪と言うより事務的な喋りに、ムカついた。
「急なお話でごめんなさいね。一般の人には分からないと思うけど、うちはそれなりの家柄なの。今回の事を大きくしたく無いのよ。分かるわよね?」
「なんとなーく分かりました。聖、お前も大変だな。この親じゃ、聖がそうやって育ったのもなんか分かったわ。」
「何ですって?」
「問題が起こるたびに、金で解決したと言うより押さえつけてきたって事だろ。何が悪くて、どこを治せば良いのかも教えずに。」
そんな泣きそうな顔すんな、聖。ほら、こっち来い。両手広げてやると俺を抱きしめてくる。抱きしめてやりたいんだがなぁこの場合。いかんせんでかいのだ。
「転校もしません。慰謝料も入りません。ただし、聖はいただきます。あなた方の元では聖の人生が潰れてしまう。人間が生きて行く上で、何が悪くて、何が良いのか、人として学ばなければいけないことも金で終わらされてしまう。そんな寂しい事は無いです。」
「何を好き勝手に言ってるの!?」美女からのビンタが来る!
と思ったら、ダンディおじ様の待ったで来なかった。
「君は何を言っているのか分かっているのか?春宮グループに、喧嘩を売っているものだぞ。」
「そうですねえ噛み付いた事をそう取られるなら、それでも良いでしょう。こちらも準備します。聖、手を離してスマホ取る。」
こんな事で連絡したく無いんだけどなぁ。聖からスマホを受け取り電話をかける。2コールで出てくれるこの人は、本当は暇なんじゃ無いのかと毎回思う。
『どうした?琴春。』
「忙しい所にすみません。今お話し大丈夫ですか?」
「可愛い琴春の電話はいつでも大丈夫だ。』
「実は……。」
通話を切りダンディおじ様と美女に向き直ると、少し時間もかかるだろうから中に入って待ってもらう。おじ様は楽しそうに俺の行動を見て、美女は原型を崩し般若の顔で俺を睨みつけてくる。お茶を出そうにもこの右手じゃ無理だなぁ。
「聖、ちょっとこっち来て。」
聖に紅茶を入れてもらい、お茶菓子を用意して、後で牛乳買ってこよう。あーでも、ご飯は食堂に行かないと無理か。うーん、どうしよう。
20分たった頃に、呼び鈴が鳴った。早から来れたのか。これはヘリできたんだろうなぁ。目立つから来てもらうの嫌なんだよ。
「来ていただいでありがとうございます。どうぞ、入ってください。」
「その右手じゃ、琴春のご飯が食べれないなぁ。」
「また今度ですね。」
ダンディおじ様と美女が驚いてる。聖は所在なさげに佇んでいる。どうしていいのかわからないんだろうね。
「紹介します。父の国崎 英一郎です。」
「お久しぶりですかね?春宮さん。息子がお世話になったようで。」
「お父さん!?ごめんなさい。琴春の右手を怪我させてしまって。本当にすみません!」
聖、真っ青な顔して土下座してる。ちゃんと謝れてえらいぞぉ。英一郎さんは人を殺しそうな顔で聖に一瞥して、前のダンディおじ様と美女に向かい合ってる。おじ様も流石に英一郎さんには余裕がないのか。
「お久しぶりです。国崎さん。琴春さんとはどういったご関係で?」
「はぁっ、琴春は可愛い俺の息子です。それが何か?」
「い、いえ。琴春さんの方から息子が欲しいと言われまして、犬猫では無いので簡単な話では無いと行ったんですがね。」
そんな話だっけ?ちがうくね?そう言えば、何でこんなに聖に拘ってるんだろうな、俺。
素直に甘えてきて、ご飯キレイに食べるし、美味いと必ずいってくれるし、とにかく、かわいくて仕方がない。うーん。
「あ、俺、聖が好きなのか。そうかそうか、あ〜ぁなるほどねぇ。」
大の大人たちが喋っているのをBGMに考え込んでいたが、聖に対する感情に気付いたわぁ。その場にいる全員にバッと振り向かれた。声に出てたのか、恥ずかしいな。チラッと見ると聖、顎外れそうだぞ。あ、みるみる間に真っ赤になっちゃった。
「こ、ことはる?い、今なんて?お父さん聞き間違いかな?」
英一郎さん、動揺してブリキのおもちゃみたいにカクカクしてる。面白い。
「いやぁ何でこんなに、聖が気になるのかなぁと考えててさ。昨日会ったばかりで、弟や妹みたいに可愛いなぁって思ってたんだけどね。この毒親見て、こいつは俺が守るって思っててさ。それで気付いたわけ。聖さ、俺はお前が好きだ。聖はどうしたい?」
聖の方に向き直り自分の思いをちゃんと告げる。聖は、驚いた顔したけどそれは一瞬で、グシャリと顔を歪めて涙が洪水のようになってる。ここで手を差し伸べるのは簡単だけど、聖に自分でちゃんと選択して欲しい。
「俺は・・・ずっと言ってた。琴春と一緒に居たいって・・・ヒック・・・俺も琴春と一緒に居たい。です!!」
「じゃあ、そういう事なので、きっちり話し合いしましょうか、春宮 誠司さん。英一郎さんも良いですよね?」
可愛い聖を、母親の毒から守る為にも使える物は全力で使わさせていただきます。
俺は英一郎さんの愛人の子。母さんと本妻さんは仲悪いけど、俺と本妻さんは仲が良く本妻さんの子供達とも仲が良い。可愛い腹違いの兄弟達だ。
俺に人脈も必要だと考えてこの高校に入れてくれた。英一郎さんの子供としてではなく、母さんの子として。だから俺を一般人だと馬鹿にする奴らは居る。だけど、そういう奴らを今後必要とするのか?と聞かれれば否だ。
聖の母親は我が子をろくに育てもせず、自分の思い通りに事を進めようとする。子供がした事の責任を取ろうともしない。全て金で話をつけるのは良いが、まずは謝罪が先では無いか?
この国のトップクラスの企業を経営している英一郎さんですら、俺が母さんを馬鹿にした奴らをボコった時ですら、真っ先に謝罪をしてくれた。それが親だと思うからかも知れないが、悪いことは悪いと態度で見せれない大人が親の顔をするなって思う。
聖は一先ず英一郎さんの養子に入る事になった。この毒親どもは今後一切の接触をしないと約束させ、俺の右手首のことに関しては責任を追及させないとした。他にも色々有るけど、その辺は英一郎さん任せだ。2週間後すべての書類を用意し、それを最後とする事になり毒親は帰っていった。聖を見て何も言うことなくただ睨みつけただけだった。
俺と聖と英一郎さんと母さんで合流して、今は中華料理店で食事中だ。聖はずっと俺の世話をしてくれてる。英一郎さんと久々に会うのか、嬉しすぎて速攻で酒につぶれた母さんの面倒をしっかりと見ている英一郎さん。
「あぁ〜あ、琴春が〜嫁に行く〜お母さん寂しいんだけど?」
「この場合、聖が嫁じゃね?あれ?違う?」
「琴春は子供産めるんだから嫁でしょ?私的に、婿って嫌なのよね。女だからかしら?」
「母さん飲み過ぎ!それ言っちゃダメなやつ!」
もう母さん大人しく寝てて。あ・・・・呆然として聖が固まって俺を見ている。英一郎さんは聖を見て固まってる。先に復活した英一郎さんは固まってる聖の顔を両手で挟んで、しっかりと目を合わせながらドスが聞いた声で言い聞かしてる。
「聖、高校卒業したらしっかりシゴいてやるからな。社会人として一人前になるまで、妊娠させたら琴春には二度と会えないと思え。」
「ひゃ、っひゃい!」
聖めっちゃ声裏返ってるじゃん。あれ?てかそもそも18の母さんに手を出して孕ませた英一郎さんは良いのか?あれ?ジト目で見ている事に気づいたか、英一郎さんの目が泳いでる。
「聖、最後に杏仁豆腐食べたい。」
「うん。あーん」
全身で俺が愛おしいって表現してくれる聖はやっぱり可愛い。眉も目尻も垂れ切ってへにょってかおで、声もあまぁーい。
「子供がデカくなるのは早いなぁ。お父さん寂しい。」
「すぐに孫できるよ、楽しみにしてて。」
「孫・・・・孫・・・・・。」
俺と聖の関係はこんな感じで始まった。
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