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再スタート
「はっぴ、ば〜すで〜、とぅ〜み〜、はっぴば〜すで〜。はぁ〜」
誕生日だと言うのに、一人でいる寂しさよ。
公園のブランコでゆらゆら揺られながら、夜空を見上げる。
都会では星が見えづらいなぁ。
田舎の夜空を思い出そうと目を閉じると、昼間の出来事が浮かんできた。
俺と付き合っていたであろう男の腕に、小柄で可愛らしい男が腕を絡め、仲睦まじく寄り添いながら歩く姿だ。
そして思い出すのは、10日前に聞いた彼と友人達の楽しそうに笑いあう会話だ。
「ゲームは俺の勝ちだからな。」
「マジかよ。そんなにあいつが良いのかよ。」
ゲームで告白して俺と付き合い初めて3ヶ月、それは会えなかったこの1週間の間にどうやら終わったらしい。そして晴れてあの可愛い子と付き合えるようになったと、言う事なのかな。
あーぁ、別れ話すら無いのかぁ。
告白されたその日に家に連れて行かれ、色々えっちー事されたが、恋人すら居なかった俺には怖すぎて最後までは出来なかったんだよなぁ。
こんな事なら最後までしとけばよかったのかなぁ。
最後に見た都会に夜は滲んでよく見えなかった。
「行ってきます。父さん、母さん。」
写真たての二人に手を合わせて、玄関に向かう俺の後ろから爺ちゃんが声をかけてくる。
「気をつけてな〜、帰りに買い物頼むぞ〜。」
「俺、今日もバイトあるよ?遅くなるけど良いの?」
「今日は入ってなかったろ?」
「あー増やしたんだよね。バイト。」
「成績下がりゃな良いがな。はははは!」
「あぁぁぁぁ!髪が崩れるじゃねぇか!もう!行ってくる。」
座って靴を履いている俺の頭を笑いながら鳥の巣にする爺ちゃんの手が暖かくてちょっとだけ嬉しい。
「気をつけて行ってこい!しっかり稼いでこーい。」
「行ってきまーす。」
爺ちゃんに見送られて、自転車に乗って学校に向かう。今日は風が心地よく、桜も葉桜になって若葉の色が目に優しい。
最後に見たあいつらの事を今でも夢に見る。あれから半年も経つのにな。
二人を見た日は、爺ちゃんの家に引っ越すから転校の書類を貰いに行った日だった。
父さんと母さんが交通事故で亡くなり、爺ちゃんに引き取られる事になった。
スマホも持っていない俺とあいつは、学校を離れれば無関係の人間。
その上、新幹線で3時間、電車で1時間も離れれば、会う事も叶わないのだ。
「なぁ、好きな人とかいんの?」
コンビニのバイト中、ここを紹介してくれた友達からの質問。
「・・・・内緒。」
「はぁ〜あ?教えろよ〜良いだろう?減るもんじゃないし。」
「嫌だよ。お前に言ったら絶対に拡散される。そして学校行けなくなるのが目に見えてる。」
「えー俺ってそんなに信用ないかな?」
口を尖らせて拗ねてる。転校して隣の席に居たのがこいつ。それから何だかんだ面倒を見てくれるいい奴。
「俺が来てから似たような前例を3つは見たからな。」
ジト目で見やると、人差し指で頬をポリポリしている身に覚えがあったようで。
バイト終わりまでお客が入ってきて、そのまま会話は終了した。
「好きな人かぁ。」
湯船に浸かり、手ですくったお湯を落としながら考えてみる。
あの3ヶ月を引きづったままで、今でもあいつが好きなんだ。
強引に始まったが、それでも思い出されるのは優しく笑いかけてくれる笑顔。
「あー結局罰ゲームだったしなぁ。俺の事なんて忘れて楽しくしてんだろ。」
泣きそうになった顔を洗い流して風呂から上がった。
休日に睡眠を貪っているのに、何やら玄関が騒がしい。
帰ってくれ!と言う爺ちゃんのでかい声が二階の俺の部屋まで響いてくるって相当でかいな。
ったく、誰がきてんだよ。パンツだけの俺は、スウェットとTシャツを着て1階に降りていく。
「合わせてください、お願いします!」
「だめだ!帰れ!」
頭を下げて居るのは、アイツで。階段から降りてきた俺に気づいて、泣きそうに顔を歪ませて居る。
「何で降りてきた!あああぁぁんもう!」
苦虫を潰したような顔で爺ちゃんが唸ってるけど、そんな事より。
「なんで、いんの?」
いきなりタオルで顔をぐしゃぐしゃ爺ちゃんに拭かれ、自分が泣いてた事に気付いた。
「ふぅ。二階で二人ではなしせぇ。」
そう言い爺ちゃんは1階の台所に入って行った。両手にペットボトルのジュースを持って帰ってきた。
「大事な孫を傷つけると承知せんからな!」
ペットボトルを俺に押しつけて釘を刺して去って行った。
俺の部屋に連れて行き、ローテーブルの横に座らせ、俺はベッドに腰掛ける。
やたらと喉が渇き、気付けばペットボトルの中身は半分だ。
「なんで、転校のこと言ってくれなかった?」
気まずい空気を破ったのは、アイツの拗ねた声だった。
「ゲームで始まった関係だったんだろ。遊びの関係なら言う必要もないだろ。」
「俺と遊びだったのかよ。なんだよそれ!」
「俺みたいな田舎者を捕まえて、楽しかっただろ。俺と別れる事もなく、次の子と楽しそうにしてたもんな!その子とうまくいってんだろ?なんで、ズッ、なんでくんだよ。」
「は?何言ってんだ?・・・別れるって・・・次の子って何だよ?」
膝を抱えて泣き顔を隠していた俺の前に座り直して、俺の前髪を横に流すように弄ってくる。
「なぁ、何か勘違いして無いか?俺は遊びでお前と付き合ってたつもりは無いし、別れた覚えもないんだけど。それに、次の子って何?いきなり消えたお前に会いたくて、やっとこの家を探し出して、この2ヶ月毎週通ってたくらいにはお前が好きなんだけど?」
いきなりの爆弾発言に困惑して、理解が追いつかない。
俺が好きって言葉がやっと理解できた俺は、顔が真っ赤になってるに違いない。
「う、うそ。だって、ゲームに勝ったって聞いたし。・・・・か、かわいい、子と腕組んで楽しげに歩いてたじゃんか。」
止まらない涙を拭いながら、俺の話を聞いてくれるアイツの顔は、俺が愛おしいって顔してて。
「ゲームって言うのは、その、恥ずかしいんだけどさ。俺の初恋がうまくいくかって事を話してただけで。」
え・・・、何それ、初恋?耳まで赤くして照れている姿が嘘では無いと教えてくれている。
何この可愛い生き物。両手で頬を挟んで食い入るように見てしまう。
「ちょ、まってはずいんだけど。」
視線を合わせないように逃げようとする顔を、逃すわけがない。
「俺、お、おれ・・・勘違いしてた?・・・ごめん。おれも初恋なんだ。お前が好きなんだ」
言い終わる前に強く抱きしめられ、頭に胸を押しつけられる。抱きしめてくれる腕の中で煩く鳴っている心臓の音は俺だけの物じゃないはずだ。
しばらく経ってから、よし!と立ち上がり、そのまま爺ちゃんの所まで連れて行かれ、交際の報告をされた時の俺のほって置かれようよ。ドヤ顔のアイツとホッとしたように安心した爺ちゃんの顔を横目に俺はずーっと、二人の会話を聞いていただけだった。
爺ちゃんには2ヶ月かけて交際の許しを請うていたみたいで、俺も一緒に来た事で納得したらしい。
高校卒業まではここで生活をして、その後は好きにしろと爺ちゃんから許しを貰った。
「孫をまさか嫁にやるとは思わなかった。」と晩酌をしながら言われた時は、夕飯の肉団子を喉につまらせかけた。
「幸せになるなら、それでいい。」と片付けが終わった時に言われ、泣きながらありがとうと返した。
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