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大治と春音
高校3年、神社に初詣に行った。
冷え込みは凄まじいが、雪は降らなくてよかった。
参拝の帰りに甘酒をいただき、また就活を頑張ろうと気合が入った気がする。
オメガの俺は高校だけは卒業しておきたくて、バイトと学生の両立は苦しかったけど、バイト先の人達がみんな良い人で、楽しく過ごせていた。
就職活動は見事にお祈りメールばかりで、験を担ぐつもりで神社に参拝しにきたのだ。
階段を下るとき、フワァっと良い匂いを感じた。
甘いような、柑橘系の爽やかさもあるような。
それと同時に湧き上がる悪寒を感じて、これは発情期だと気付いた。
急いでその場を離れ、抑制剤をカバンから取り出そうにも手が震えて上手くできない。
「見つけた!」
駆けつけてくれた人は俺を余裕で抱き上げ、そのまま車に乗せた。
この時の俺は意識も曖昧になりかけていて、ただただこの熱を早くどうにかしてほしくて、抱きしめてくれる人に泣いて縋っていたはず。
スッキリと目覚めた時には、頸を噛まれていて番になっていた。
まさかの運命の番ってやつですね。
都市伝説だと思ったのに、まさか自分の身に降りかかるとは思っても見なかったよ。
お相手は、西島 大治(にしじま だいじ)君。
俺と同じ高校3年で、私立の良いとこの高校に通ってる。
俺は、オメガの診断が出てから中学卒業と同時に親に捨てられた小島 春音(こじま はるね)。
少しでも離れたく無いと言う大治は、私立の高校に編入させて俺と一緒に通う事を選んだ。
「後3ヶ月で卒業なのに、もったいないよ」
「むーりー運命なんだよ?離れていられると思う?春音が何しているのか気になって俺が無理」
さすがはアルファと言うのか、強引に色々と決められてしまう。
住んでいたアパートも解約して荷物も大治のマンションにあるし、バイト先にも辞めると言われていたし。
慣れるしかないんだろうな
そんな諦めのこの頃。
だからといってこれはいかがなものか。
先生に呼ばれた大治が俺のそばから居なくなり、その隙をついて呼び出された。
大治と付き合ってた?身体の相性は良かった?俺さえ居なければ大治と結婚して番になれたのに?
と、相手の話を要約するとこんな感じ。
「うーん、いきなりパッと出で横から取られたって事か。俺が謝る事じゃないしな。」
ちょっと待ってと相手を待たせて、大治を呼び出した。
現れた大治は、なんだろうね、これはこいつの性格なのか判別し難いんだけど、怒りを張り付けた笑顔で誤魔化しているけど、隠しきれていない。
「何かな?春音」
「とりあえず、そのアルファの威圧を下げようか?ね?」
「これでも落ち着いているよ。番にちょっかい出されて黙っている奴はいないと思うよ」
「だーも!俺は何もされてないから!話にならないのなら帰れ!もういい!」
頭に来た俺は呼び出した子とその場を離れようとした。
離れたいんだけどなぁ。
俺の首と腹に腕を回して後ろからハグですね。
俺の後頭部の匂いを嗅ぐな。
スンスンすな!
「話する気は有りますか?」
「んんんんんー。有る」
「ふふふ、子供か!とりあえず、この子と付き合っていたんだろ?俺が破局させてしまった事はどうしようもないけれどさ、大治はちゃんと謝れよ。辛い思いをさせてしまったのは事実なんだからさ」
「春音は悪くないよ!付き合ってた事実はない!身体の関係はあったけれど、それは性処理であって、それだけの関係だ」
呼び出した子は青白い顔で、そんな…とか、嘘だ…って呟きながら涙を流している。
俺に抱きつきながら、二度と関わるな。春音とお前を同じと考えるなって言ってる大治にキレた。
一瞬。
大治に膝をつかせ、右肩を抑えて前髪を持つ俺。
「運命の番がこんなに不誠実な奴だとはな。残念すぎて吐き気がする。たとえどんな関係だろうとちったあ、相手を思いやれよ。そのうち飽きたら俺の事も捨てんだろうな。簡単に」
春音は違う!そんな事は一生起こらない!必死に訴える大治を軽蔑する目で見てやった。
「ごめんね、もっと綺麗に収められると思ったんだけどな。」
ハンカチで涙を拭ってやる。
「こいつの事は諦めて欲しい。どうあがいても誰かに渡す気も無いんだ。物理的に離れたら死ぬから俺が。気持ちは一気に冷めてるけどな。」
春音ちょっと待って、と喚き出したから、
「うるさい!少し黙ってろ!今少し待つのと一生口聞かないのとどっちがいい!?」
しょぼくれて「待ちます」って。
怒られた犬みたいで大治が可愛い。
シオシオの耳と尻尾が見える気がする。
「次はちゃんと自分を見てくれる人を見つけて。あなたはもっと良い人捕まえられるよ。ちゃんと謝れる人を探してね」
俺の気持ちが伝わるように、抱きしめて囁くように伝えた。
最後に見た顔は泣きながらも、笑顔で去っていった。
次はこっちかぁ〜。
振り向けば、正座で地面に座りそのままのめり込むんじゃないかなってくらい凹んだ大治。
「お待たせ」
大治の首に抱きつくと痛いくらいに抱きしめ返された。
「ごめんなさい。それと春音は運命だけどちゃんと好きなんです。愛しているんです。他の子なんて目に入らないし、飽きるなんて無いです。」
捨てられる寸前のいつぞやの俺の姿を思い出させる大治に、申し訳ない事をしたなぁと少し反省。
延々と続く俺への謝罪がいつの間にか、俺の笑顔が好き、ありがとうと言ってくれるところが好きに変わって、褒められすぎてすぐにお腹いっぱいになった。
「恥ずかしいからやめて!わかったから!」と叫んでもまだ足りない!30分以上は聞かされた。
「わかったから、俺も好きだから愛してるからもういい!」
大治の口に自分の唇を当てて、まだ喋ろうとする口を塞いでやった。
まーそこから濃厚なキスで腰砕かれて、お家で美味しくいただかれたのは計算外だった。
そして何故か大治よりも俺の方が危ないと言う噂が流れたのは何でだろうね?
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