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重い思い

「紹介する、恋人の一希だ。」 目の前で自分の好きな人が、優しく微笑み肩を抱いて恋人を紹介してくれた。 同じ男なら俺でも良いじゃないか。 何処が良いんだよ! 俺の方が高校からずっと思い続けて来たのに。 俺とは真逆の庇護欲をそそられそうな容姿。 素直な性格なのか、赤い顔をして幸せそうにニコニコ。 「やっと落ち着いたのかよ!しあわせにな!」 リア充爆ぜろ!なんて言いながら友達想いな俺は笑顔で祝福を送る。 滑稽だな。 想いを伝える勇気すら無くて、良い友達で居続けた。 自棄になってバーで知り合った男とホテルに行った。 酷くしてくれ。 そう?じゃあ、酷くしてあげる。 触れるだけのキスから始まり、息も絶え絶えのキスに変わった。 そこからは全身が自分のものじゃないように彼の愛撫で狂わされた。 彼のモノが入って来るまでに何度イカされただろうか。 初めての経験で快感が過ぎるほど与えられた。 恋人の様に優しく、丁寧に、時に激しく。 「酷くしてって、言った」 「俺のやり方でしてやっただろう?」 ほぼ一晩中喘がされた喉は、水を飲んでも癒えない。 生まれたての子鹿の様に足腰の立たない状態。 まるで本当の恋人の様に扱われる状況に、溺れさせてどうする気だと、お門違いな怒りが湧いた。 ようやく立てるようになったのは昼前だった。 じゃあ。と彼の顔を見ることなくホテルから出た。 ドアが後ろで閉まりカギがガチャっとひびいた。 高い位置にある太陽の光を浴びて歩き出す足が軽い。 ふと友人を思い出す。 まだ24時間も経っていないのに、あれ程溢れ出そうだった友人を好きだと言う重い苦しい気持ちが無くなっている。 まるで憑き物が落ちたように、心が軽い。 自宅に帰って起きれば早朝だった。 新聞配達か、牛乳屋さんのバイクの音がしている。 朝飯を食って、大学に行って、友達とバカ話で盛り上がって、バイト行って、家に帰って寝る。 いつもと変わらない日常に、友人が関わらなくなって半月が過ぎた。 たまに友人が恋人と現れても俺は落ち込んで居なかった。 自分は薄情な人間だったのか?自分があまりにも深い悲しみのあまり、おかしくなったのか? 友人が笑いかける相手に嫉妬して、友人が触れる相手を引き剥がしたくて、友人が話しかける相手を・・・・・。 そんなドロドロとした想いはもう無い。 カフェオレを飲みながら、コーヒー嫌いの友人と一緒に、飲めなくは無い紅茶を思い出す。 あぁ、友人の事は思い出になったのか。 自分の頬を流れるものに気付き、袖で拭う。 次第に、嗚咽も鼻水も袖で追いつかなくなった。 「まだ、友人の事を忘れられない?」 誰もいないと思っていた。 人気がないこの場所になぜ彼が居て、どうして俺を後ろから包み込むように抱き締めるのか。 色々と疑問が浮かび上がった。 けれど口から出た言葉は、酷くして。 「良いよ、俺のやり方でね。」 不敵な笑みで深いキスをした。 息が苦しくなり、胸を一叩き。 叩いた手を受け止めて、俺の目を見ながら手の甲にキスを一つ。 誰の目を気にするでもなく、大学の中を俺と恋人繋ぎで歩き出す彼。 視界の端に驚いた顔をした友人とその恋人を見た気がした。 そちらを見ようと動かしたけれど、顎を掴まれて見る事が叶わなかった。 「酷くしてあげないよ」 囁かれてしまえば、彼と繋いだ手に力が入った。 「早くして」 軽口を叩いたつもりが、ただただ彼を焚き付けてしまったようだ。 タクシーで10分もかからずに到着したマンション。 エレベーターの中から始まったキスと、全身を撫でます手に翻弄され、目的の階についたと言うのに腰が抜けそうになって歩けなくなった俺。 愉快そうに笑いながら、軽々と俺を抱き上げキスをしながら歩き出す。 キスに夢中になっている俺はベッドの上に大事に大事に寝かされた。 あの日の彼を思い出す。 あれが最上だと思っていた。 彼の甘い優しいドロドロと抜け出す事ができない愛情に溺れた。 まだ上が有ったのか。 『貴方が好きでした。初恋はキレイなだけでは有りませんでした。      けれど次の恋は愛まで育ちました。        彼の酷く重い想いのお陰で。』 誰に読まれることもない手紙を書いて、ゴミ箱に捨てた。 まるで羽が生えたように心が軽い。 だって、彼の愛に溺れて浮いているだけの俺だからね。

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