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勝ち組人生のはじまり_1
運命の日は、いつも晴れると決まっている。
俺、門脇亮介は謂わゆる晴れ男だ。それもこの世に誕生後の退院から始まり現在に至るまで、大切な日は常に晴天に恵まれる絶対的な晴れ男。
「やった、やった、やった、やったぞー!」
勝利の拳を突き上げた秋の空は、どこまでも高く澄んで雲ひとつない。人生最大の運命の日は、人生最高の晴天に恵まれた。つまり初めから勝利は確定していたのだと、亮介は鼻息も荒く悦に浸る。
しかしそれも仕方ない。プライバシーに配慮したテスト故に他の試験者の詳細は不明だが、これは受験以上の運命の分かれ道だ。
ちらりと周囲を伺っただけでも、明らかにこの世の終わりの空気を背負った者と、自分と同じく人生の勝者となった者でまとう空気にくっきりと明暗がついている。
だがそれも仕方ない。リトマス試験紙が赤に染まるか青に染まるか。簡潔に例えるならただそれだけのことが、本人にはどうしようもない今後の人生を決定するのだ。この結果に落ち込まずして、一体何に落ち込めばいいと言うのだろう。
ともあれ俺は、本日をもってこれまでの努力が正当に報われる勝ち組入りが確定したのだ。暗く沈んだかつての仲間たちには同情するが、これからは別の世界の住人。同じく晴れやかな笑顔の者たちと喜びを分かち合い
、ついでに連絡先も交換すると、約束の時刻三十分前を知らせたスマートフォンをポケットにしまって試験会場を後にした。
「亮ちゃん、こっちこっち」
待ち合わせにしていた駅前のファーストフード店に入ると、窓ぎわの席を取っていた翔平が手を振りながら立ち上がる。
二歳年下の榊翔平は、同じ高校の後輩であり、幼稚園の頃からお隣に住んでいる幼なじみだ。
嬉しそうに笑う顔はまだ幼さが残るが、難関として名高い中高一貫校で常に成績トップのスーパーエリート様。加えて運動神経抜群、先輩にも後輩にも教師にも慕われる人格者と、隙を見せたら負けなのかと嫌味を言いたくなるほどのスーパーマンである。
こんなファーストフード店に居てさえ、翔平の周りはキラキラと星が光って見える。完全無欠の人間というのは、何処にいても凡人には眩しすぎるのだ。
「お、おう。待たせたな」
そこまで考えてから、いかんいかんといつもの癖で卑下してしまう自分を戒めた。
何もかもが眩しい、エリートの中のエリート。そんな翔平が特別なのは今さらだが、もう俺だってそう捨てたものでもない。それが今日、確定したのだ。
「どうだった……て、聞くまでもなさそうだね」
「え、分かるか?」
「まあね。でもせっかくだから、亮ちゃんの口から直接聞きたいな」
「はは、だな。耳貸せ、翔」
「うん」
安っぽいテーブルを挟んで顔を近づける翔平の耳に、態とらしく手をかざして声を潜める。
「俺、アルファだった」
小声ではあるが初めて口にしたその言葉に、じわりと実感がこみ上げてきて口元が緩む。
アルファ、あるふぁ、α。ベータでもオメガでもなく、アルファ。なんて良い響きなんだろう。やばい、こんな場所なのに泣きそうだ。
「おめでとう、亮ちゃん」
俺の緩んだ顔で分かってはいただろう翔平が、ふわりと微笑みながら祝福してくれる。
そんな優しくて最高の友だちを、俺は今日この日まで心の底では妬み嫉んできた。最低だった、反省していると、心の中で天使に平謝りをする。
「これで俺たち、本当の友だちだな。改めてよろしく、翔平」
「うん。こちらこそ、よろしくね」
力強く握手をした翔平の手は、まだ俺の物よりひと回り小さい。しかし成長期の高校時代を終える頃には、年齢差で上回っている項目すらあっさりと覆されるだろう。
それが両親共にアルファという、生まれながらのスーパーエリートである翔平の持つ宿命というやつだ。同じアルファになれたことは本当に嬉しいが、だからといって翔平との間にある圧倒的な差が埋まった訳ではない。
三つの性に別れた世界の掟。それは永遠に埋めることはできない不文律なのだ。
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