1 / 5
第1話
そいつがうちに来たのは夏の暑い日だった。
指定された場所まで車で迎えにいくとそいつは夏だというのに長袖を着て長い髪を垂らして俯いていた。
「すみません。お待たせしてしまって相良です」
そいつと一緒にいた柄の悪そうなそいつの親戚に挨拶をして、とっとと引き渡してもらおうと思い声をかけると向こうもこちらに挨拶はしてきたがどうにも面倒くさそうな返事をしてきた。
そして向こうも早く帰りたいのか
「おら、お前の引取り先だ、『お世話になります』くらい言えねーのか」
とそいつの頭を殴った。
どうやら炎天下の中待たされたことでイライラしていたようだったがそいつは殴られた頭をいっそう深く俯かせたまま何も言わなかった。
とりあえずそいつの荷物を受け取り、そいつを車に乗せようと、声をかけても一向に動こうとしない。
どうしたもんかと見つめているとそいつが少しだけ顔をあげた。
長い前髪の間から見えた目と目が合ったが、そいつはすぐに顔を伏せ
「あ……う、あ」
っと小さく声を発したが俺には何を言いたいのか理解出来なかった
しばらくそいつの様子を伺っていると何かを決心したのか、そっと俺の服の裾を引っ張り
「ん」と、一言だけいい車に乗った
ともだちにシェアしよう!