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第40話
それにしても、本当に、今日は一体どうなってるんだ。
ミスで逃したバーテンダーさんに再会し、粟島先輩と再会し、オシャレしたムラサキさんが登場し。
何度驚けばいいのかわからないし、心臓にダメージがでかすぎる。
ストーカーからの写真を見た時とは違う種類の衝撃が多すぎて、仕事が終わったらぐったりしそうだ。
ともあれ、そんな緊張と緩和の時間を過ごし、あっという間にパーティーの時間は終わり。
結構有名らしい先生の売れた記念だか新作披露だかのパーティーもつつがなく終了し、お客さんは無事全員下船。
その後片付けも済み、誰かに声をかければ帰っていいと言われ帰る準備も終えたんだけど。
一応最後に声をかけようと思った先輩はどうやら忙しいらしく姿が見当たらない。
仕事中も何度も様子を見に来てくれたけどそのたび忙しそうにしていたし、さすがに一杯、というわけにもいかなかったから多くを話せなかったのは良かったのか悪かったのか。
だからと言って無理やり探し出して引き留めるのもなんだから、後で電話でもしようかと近くの社員さんに声をかけて船を下りる。
……さて、これからが俺の時間なわけだけど。
勢いで名刺を渡してしまったし、ある程度の身元がバレてしまった藤沢さんとこの後ホテルに行くべきか迷う。
一度限りという大人の関係を了承してくれるならいいけど、仕事の関係者となると少し難しい。
やめておいた方が、無難といえば無難。だけどせっかく再会したのだし、最初からヤる気だったから大人しく一人で帰るというのも寂しい。
本人と話して決めればいいかと見つけた藤沢さんに手を振って近づこうとしたとき、「夕!」と名前を呼ばれた。
振り返ればそこに、迫力のあるイケメンが。
「帰るぞ」
「え、あれ、ムラサキさん?」
さっきから姿が見えなくなっていたから、てっきり先に帰ったと思ったのに待っててくれたのか。
キラキラの船をバックに、ポケットに手を突っ込んだまま顎をしゃくるムラサキさんは、その格好とセリフが相まってまるでマンガのキャラのようだ。
……って、まずい。嫌なバッティングをした。
「田淵くん……?」
離れた場所に立ち止まる俺に、怪訝な表情を見せる藤沢さん。
その手によってもたらされるめくるめく時間は惜しいけど、この場合はしょうがない。
「すみません、藤沢さん。ちょっと用事ができたので、今日のところは帰ります。縁がありましたらまた!」
「ちょ、ちょっと!」
早口で謝って頭を下げて、回れ右をしてすでに歩き出しているムラサキさんのもとへ走る。
縁があったら、と言っても二度機会があって二度逃すということは縁がないとも言えるし、少し複雑なところだ。
でもムラサキさんの前で男と消えるというのもいかがなものかと思う。いや、家にお世話になっている身としては無理だ。
せめて目の前じゃなかったら、遅くなるという連絡だけで済んだし、それで大体察してもらえただろうけど、目の前で「それじゃあ行ってきます」はいくら俺でも無理。
そう思ってムラサキさんと一緒に帰る選択をしたけれど、乗ったタクシーの中では終始無言でそっぽを向かれてしまった。
念のためと回り道をして、家まで行かず駅で降りて、家に着くまでの歩きの道も無言。
家に辿り着いたところでさすがに黙っていられずにその背中に問う。
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