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第75話
「夕、そろそろデートしない?」
初めての甘い甘い夜からしばらく経って。
ムラサキくんがそんなことを言い出したのは、気持ちのいい夜の運動をし終えた後のことだった。
ピロートークというやつだろうか。
前までは終わった後にうるさいなとしか思っていなかったけれど、気持ちのいいまどろみにムラサキくんの声は心地よく響く。
こうやって同じ人と回数を重ねると、いくつも違う発見ができるというのは今まで知らなかったことだ。
その中でわかったのは、好きな気持ちが体の気持ち良さと直結しているということ。
そしてお互いの体を知ると、気持ち良さもまた進化するように増えるのだということ。
「あ、そういえば約束してたね」
「カップルとしてのデート取材。明日とかどう?」
そういえばまだムラサキくんとデートというものをしたことがない。
そんなまどろっこしいもの必要じゃないと思っていたけれど、ムラサキくんとならきっと楽しいはずだ。
デートが楽しみだなんて、俺もずいぶんと人間らしく成長したな。
「いいよ。でもその話はまた今度がいいな。今は別のことがしたい」
成長した分、俺の余裕も戻ってきた。
だから二回戦目いかがですか、と腹筋に指を這わせてお誘いすると、呆れたようなため息をつかれる。
「まだ足りないのかよ」
「だって昨日してない」
「……締め切りあるから今日はおあずけ」
いくら激しく愛し合ったとて、ほぼ毎日していた身としてはまだ足りないし、気持ちいいものはたくさん欲しい。
でもデートの話をスカされたことで機嫌を損ねたのか、ムラサキさんは俺のおでこにちゅーを落としてベッドを出てしまった。不発だ。
「じゃあ代わりにマンガ見せて」
仕方なく代わりを求めると、はいはいと子ども扱いでタブレットを渡される。
電子書籍が未だによくわかっていない俺は、ムラサキくんのマンガが見たい時はこうやってねだって見せてもらうんだ。
ムラサキくんが構ってくれないのなら、ムラサキくんが描いたエロイものを見てヌいてやる。
「ムラサキくん、だいぶ作風変わったよね?」
指を滑らせエロシーンを探しているうちに普通に読みだしてしまうのはいつものこと。
それにしても最近のムラサキくんが描くものは、どこか刹那的で切ない前のものとは違い、幸せエロが満載だ。
繊細な絵でイチャイチャエロエロしている。それがまた好評らしい。
「満たされちゃったからかな? でもやっぱり物語はハッピーエンドがいいよね。俺は、ムラサキくんが描くものならどっちも好きだけど」
それにしてもエロい。前も十分エロかったけど、本物を存分に体験した分、エロさに拍車がかかっている。それでいて純愛に見えるんだから、ムラサキくんは根がピュアなのかもしれない。
そんなことを思いながら指を滑らせていると、見ていたタブレットの画面が陰った。
「……ムラサキくん? うるさかった?」
パソコン前に移動したと思っていたムラサキくんが戻って来ていて、タブレットを取り上げられる。
「仕事、協力して」
てっきりうるさいと怒られるのかと思いきや、キスをされてそのまま体を倒された。
どうやら、なぜかその気になってくれたらしい。嬉しい誤算だ。
「喜んで。なにがご入用?」
「美人なネコちゃんのエロい顔」
見せて、と囁かれて、体を走る甘い痺れに震える。
「任せて。得意科目」
言ってこちらからキスをすれば、デートの予定を明日にしなかった俺の賢さがわかるだろう。
だってたぶんきっと、明日の朝は起きれないもんね?
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