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第74話
「ゆっくりするから、痛かったら言って」
「え、あ、あ、な、んでそんなこと知って……んっ」
解すように触れ、探るように指を入れられ、焦れったいくらいの丁寧さで広げて慣らされる。一本ずつ指を増やし、俺が反応するところを丹念に探り、その間にも体に触れて愛撫も忘れない。
こんなに丁寧に慣らされたことなんて今までになくて、リードするつもりがあっという間に指だけでぐずぐずに溶かされてしまった。
そこまでされてやっと気づく。
ムラサキくんがBLマンガ家で、作品の中で幾度も男同士のセックスシーンを描いてきた人なんだと。
「これぐらい慣らせば大丈夫そう?」
「だいじょうぶじゃない」
散々慣らしたあげく、窺うように聞いてきたムラサキくんに素直な気持ちを返す。
全然大丈夫じゃない。
ムラサキくんがこんなに我慢強いと思わなかった。さすがに中学からの想いを持ち続けられる人の根気は伊達じゃない。でもセックスに我慢なんて必要ない。
「早く入れて。早く。もう待てない」
今は優しさよりも強い刺激が欲しい。妄想じゃないそれで、一緒に気持ち良くなりたい。
だから早くと体を揺さぶると、ムラサキくんは表情を消して俺の足を持ち上げるように抱えた。
そして掠れるような声で「痛かったら言って」ともう一度繰り返すと、俺の腰に手を添えて一気に奥まで貫いてきた。
その突然の性急さに、嬉しくて笑いそうになった。
なんだ。ムラサキくんも限界だったんじゃないか。
ただ待ちに待った奥までの刺激がとても強くて、それだけで果てそうになって鋭く息を吸う。もったいなくてまだ冷めたくない。
「あ、ああっ、あ!」
幸い遠慮なんてなかったムラサキくんの突き上げに意識が戻ってきて、その気持ち良さに抑えきれない声が上がる。
妄想のムラサキくんより激しくて、揺さぶられる気持ち良さは恐いほどで、すがるようにその体に抱き着くと、そのままの体勢で唇を塞がれた。
苦しくて気持ちいい。気持ち良くて恐い。
「夕、声、すげぇいい」
「あっ、こわい、こんなの、知らない……っ」
ぬめった音が体に響き、奥まで押し上げられる苦しさに喘ぎ、知らない気持ち良さに溺れそうで必死にムラサキくんの体にすがる。
今まで数えきれないくらいしてきたセックスとは、まるで別物のようだ。
「……夕、なんか初めてみたいなんだけど」
「だって、こんな、の初めて……っ」
本当に、こんなの初めてだ。
たぶんそれは、ムラサキくんの「好き」という気持ちが伝わってくるから。
触れたところすべてから、溢れるくらいの愛情と欲情を感じ取ってしまうから、それに溺れそうになるんだ。
ぐずぐずに溶かされて、消えてなくなってしまいそう。
「好きだよ、夕」
気持ち良さの絶頂で囁かれ、体の奥でムラサキくんの熱い気持ちを受け止めて、体が震えるくらい気持ち良く果てて、俺は愛される幸せというものを知った。
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