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第73話

「卑怯だろ、そんなの急に。全然見られてないと思ってたのに、そんな風に思ってくれてるなんて思わねぇじゃん……」 「君が言わせたんだよ」  ムラサキくんが真剣に俺のことを考えて言葉をくれたから、俺も同じようにしただけだ。  でも俺からそんな気持ちが返ってくると思っていなかったらしいムラサキくんは、エッチな言葉を聞いた少年のように赤くなっている。  いや、むしろその通りなのかもしれない。 「びっくりしてるかもしれないけど、俺もびっくりしてるからおあいこだよ」 「……おあいこじゃない。中学の時からずっと好きだったんだぞ。俺の方が驚いてるし死ぬほど嬉しい」  まるで心臓の音を聞かせてくれるかのように力を込めて抱きしめられ、その鼓動の速さを直に感じる。  こうしていると、ドキドキが俺にも移りそうだ。 「……ねえムラサキくん、カクテル作らせてくれない?」 「は? カクテル?」 「ビトウィーン・ザ・シーツを君に送りたい」  ムラサキくんの腕の中は居心地がいいけれど、やっぱり俺は先を求めたい。  気持ちいいことが好きだし、今までみたいに一人と一人じゃなく、二人で気持ちいいことがしたい。  正解のお祝いで乾杯、なんてつもりじゃないけど、その意味はわかりやすく伝わっただろう。 「いらない」  だけど驚くほど早くそれを断ったムラサキくんは、体を離し、手を繋いだまま立ち上がった。  まさか恋愛関係になると色々段階を踏んでからじゃないとセックスをしちゃいけないものなのか?  そう驚いたのもつかの間、後をついていった俺をローベッドに座らせ、その横にムラサキくんも座って。 「そんなに待ってらんない」  食いつくようなキスをされ、そのまま押し倒される。  何度も何度も、音を立ててかわすキスの合間にシャツを脱がされ、急かすようにムラサキくんのシャツを引っ張ったら一度体を起こしたムラサキくんがやたらかっこよくシャツを脱ぎ捨てた。というか、とてもかっこいい体をしている。マンガ家なのに。  その視線に気づいたのか、ムラサキくんが少しだけ気まずそうな顔をした。 「……見られた時恥ずかしいだろ、だらしない体だったら」 「え、可愛い」  なにそれ。俺とする時のことを考えて鍛えてたの? それって可愛すぎませんか。  こんなにいい体してるのに、それが俺のためだなんてエッチすぎる。 「可愛いのは夕だろ」  でもムラサキくんは可愛いと言われたくないお年頃のようで、むっとした顔でそのまま履いてるものを剥がれた。そして足の間に入り込んできたムラサキくんに、少しばかり焦る。 「あの、ごめん、ムラサキくん。いきなりは……」 「わかってるよ。俺を誰だと思ってるんだ」  盛り上がっていきなり入れたくなるのはわかるけど、男同士だと用意が必要なんだ。ノンケ相手だとそれをわからせるのが難しくて、自分で用意するまで待ってもらうことが多いんだけど。  ムラサキくんは頼もしい口調で言い放ち、いつの間にか用意していたゴムを指先にかぶせ、たっぷりのローションをかけた。

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