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第4話
腰を掴むと一気に奥まで貫いた。
「あ゛ぁぁッ」
反射的に逃げようとする身体を押さえつけて、彼の最部を犯した。皮膚を打ち付ける乾いた音と抑えきれない喘ぎ声が響く。唐突にその体ががくがくと震えて強張った。突っ込んでいた性器が食いちぎられそうなぐらい締め付けられ、俺も息を飲んだ。
「――ッ!」
「……イッたの?」
尋ねるが首を横に振る。確かに泣きながら耳まで紅潮させてはいるが、射精はしていなかった。どうやら出さずに達したようだ。構わず腰を打ち付けると、身体を反転させて片腕ですがってきた。
「あぁ……待って……うぅ……ぁ……んっ」
その背中に覆いかぶさって、ねっとりと耳を舐めた。耳輪に舌を這わせ、濡れた耳穴にそっと囁く。
「淡路さんって後ろだけイケちゃうんですか?」
「ふ……ッ」
淡路は答えず俯くだけだ。その姿に悪戯心を擽られる。
「会社の奴らが今のあんたを見たらどう思うだろうな」
弾かれるように目が見開かれ、怯えるような視線で射抜かれる。怯える彼の姿を楽しんでいる自分がいる。
――いい気味だ。
劣等感のある過去とつまらない日々の鬱憤をこの男の陥落によって溜飲を下げている自分がいる。
「偉そうに雄弁振るうあんたがこんな変態だったって知ったらきっとみんな態度変えるだろうな。伊藤なんて近寄るだけで悲鳴上げるんじゃね?」
「……やめて……」
弱々しい反論とは裏腹に淡路の中心は萎えていなかった。ジュブっと音を立てて淡路を貫くと気持ちよさそうに熱い息を吐いた。
「ハハ、すごい吸い付いてくる。軽蔑される姿想像して興奮してるんですか?」
「あ、違う……違うぅ……」
「何が違うんですか? 今日だって見知らぬ誰かに掘られたくて待ってたんでしょ?」
「うっ……」
淡路の肩が小さく震えた。這いつくばったまま床に顔を伏せている。そして子供が懇願するような弱々しい瞳を向けてきた。
「……矢名瀬、誰にも言わないで……」
普段の凛々しい面影もない。泣きながら紡ぐ拙い言葉遣いが不憫にまで思えてそれが俺を苛立たせた。俺は鼻先が触れるほど顔を近づけた。
「淡路さん、俺を買収してよ。そしたら気持ちよくイカせてあげる」
「わかった……わかったから……なんでもする……」
何度も頷く彼に満足すると俺は彼の身体に再び旋律を刻んだ。
「あ……ッ、あ゛ぁッ、あッ」
「気持ちいい?」
「んん゛ぅ、気持ちいいっ、もっとして……ッ、矢名瀬ぇ……」
上ずった声でおねだりする淡路に不覚にも欲情してしまった。荒い呼吸を繰り返しながら、自分勝手に自分の欲望をぶつけた。耐えるように喘ぐ淡路の中で俺は白濁を吐き出した。
「淡路……さん……ッ」
思わず彼の名前を呟いた瞬間、淡路が自分の手の中で果てたのを感じた。
吐精後の気だるさに飲まれてそのまま眠ってしまった。
朝起きると、すでに淡路はいなかった。彼が眠っていたであろう場所に五枚の紙幣が置かれていた。諭吉が五枚。
まさか本当に金を置いていくなんて思っていなかったので、この金に俺は戸惑った。
酔っていて少し……いや、かなり気が大きくなっていたのは否めない。会社では完璧超人の仮面を被ったこの男の狼狽する姿が見たかっただけだ。
誰もが憧れるエリートが実はとんでもない変態だった。その事実にどこかで軽蔑して、どこかで安堵している。
「俺は買収されたのか」
口止め料なのかもしれない。一円でも金がほしい俺は、プライドに引っかかりを感じながらもその金を財布に入れた。
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