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第6話

 二次会はキャバクラだった。俺が世界で一番縁がない場所。きらびやかな店内に薄い衣装を着た女性キャストが甲高い声を上げて大げさに笑っている。  帰りたい。  今すぐ帰りたい。  参加者は淡路の取り巻き五人。皆、一次会で飲んだ酒が回ってきたのか、だいぶ出来上がっている。浮かれた奴らを横目に俺はビール一杯千円という価格設定に腹を立てていた。隣に座っただけの女が「私もいいですか?」って言うので駄目だと言ったら、周りの先輩社員に怒られた。 「矢名瀬くん、今日は僕の奢りだから」  淡路の言葉に心から安堵した。隣の女に「なんでも好きなの頼めば」って言うと、あまりの豹変に周りが笑った。 「こいつ、会社でもこんな感じなんですよ。もう伊藤ちゃんが可哀想で」  他部署の課長である木村が俺を指差してそんなことを言い出した。木村はいつも淡路について回ってゴマをする四十代の冴えないおっさんだ。いつも人を蔑むことで笑いを取ろうとする典型的な嫌な男だった。どうやら次のターゲットは俺のようだった。 「でもこうやって二次会まで来たってことはなにか心境の変化があったんじゃないのか?」  淡路が助け舟を出した。この場で一番偉い男が庇っては、誰もそれ以上言えなかった。俺は曖昧に返事をしながら、お前が連れてきたんだろ。という言葉を飲み込む。 「まあ……、そうですね……」 「その気持ち、忘れるなよ」  両手にキャストを携えて淡路は悠然と座っている。俺は彼に向かって黙って頭を下げた。話題は誰かが結婚するという話に変わり、俺はソファに座った置物になりきって気配を消した。 「もう少し楽しそうな顔したら?」  場が馴染んで酒が進んだ頃、淡路がそんなことを言いながら隣に座った。昨日と同じ香水が漂って俺の心臓が跳ねた。 「無理ですよ。なんでこんなとこ来たんですか」  あまりの嫌気に相手が目上の人間であるという気遣いを忘れてしまった。しかし相手はこちらの棘を気にする様子もなくひょうひょうとしている。 「人を減らせるし、部下と話さずに済むから楽なんだ」  だったら飲みに行かなきゃいいのに。  会社の飲み会という行事に価値を見いだせない俺には理解できなかった。納得できないでいる俺にさらなる説明をするでもなく、彼はさらに距離を詰めてきた。膝がくっついて俺は固まってしまった。淡路は内緒話をするように耳元で囁いた。 「それにこの店緩くてさ。少しぐらい触ってもうるさく言わないんだ」  突然内股に撫でるように手が滑り込んできた。下肢に向かう動きに背筋が粟立つ。 「……ちょっと」  身体を強張らせ、ソファの上で少し身を引いた。周りに人がいるのに何を考えてるんだ。責めるように相手を睨むと、彼はそんな反応すら楽しむように笑っていた。 「ああ、君はキャストじゃなかったね」  あまりの言い草に反論も浮かばない。彼は煙草を取り出した。黒色の筒に煙草を挿して口に加える。加熱式煙草は誰かが火を付ける必要はない。彼は大きく息を吐いて背もたれに身体を預けた。

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