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第1話
近頃の俺はすこぶる機嫌が悪い。それはもう、いつなんらかの罪を犯してもいいくらいに。自分で自分が怖くなるくらいに。だけどそんな自分が実は本当の自分なんじゃないかと、受容する心へと移行しつつあるくらいに。罪を犯す者の心理とはこういうものなのかもしれない。案外、冷静なものだ。
普段は良心だとか外面だとかで何重にも上塗りして隠している、どす黒いどろりとしたヘドロのようなものが流れ出てきたきっかけは、大まかに言えばみっつだ。
ひとつは、親父の再婚。
高1の春、母さんになる人だよ、と紹介された女は、厚化粧のスナックのママみたいなババアだった。よろしくねぇ純ちゃん、と、血の色に染まった唇を傷口の亀裂のように開いて笑い、俺に手を差し伸べてきた。「ちゃん付けしないでください気持ち悪い」と言って差し出された手を無視して耳の穴をほじったら、親父に殴られた。
母さんだかババアだかなんだか知らないが、てめーら勝手にやって勝手に浮かれてろよ、というのが正直な感想だ。老いた欲の塊ふたつがくっついたところで何も生まれやしない。生む気もないだろう。なんてったってあいつらは欲の塊だ。自分たちが満たされればそれでいいだけの、豚共だ。
だからどうぞご勝手に、くれぐれも俺を巻き込むなよ、という切なる願いも、豚共はブーブー言うだけで聞き入れてはくれないが。
ふたつめは、その再婚した女の連れ子がクソめんどくせーガキだということ。
そのクソめんどくせー連れ子、健人は小学5年生という生意気盛りな年頃なのだが、母子家庭だったせいか母親への依存が凄まじく、ババアが親父とデートに行こうものなら怪獣のように喚き散らし、荒れ狂い、部屋を嵐が去った後かのように散らかし、挙げ句疲れて果てて勝手に寝てしまう。それを片付けるのが兄の俺の役目らしい。なんだそれ。知ったこっちゃねーよこんなガキ。ババアが恋しいなら熟女のAVでも見せてトラウマ植え付けてやろうかと本気で考えている。
そしてもうひとつ。高校に入ってからできた友人、北村に、先日押し倒されキスをされ身体を撫でくり回されたこと。気持ち悪い。これに関しては、それしか言うことはない。
そんなみっつの事情が重なり、俺は現在犯罪者一歩手前のような思考回路で日々を暮らしている。
本当にギリギリなんだ。ババアのすえた匂いを嗅げば干してあるストッキングで首を絞めたくなるし、親父のだらしなく緩んだ顔を見たら鈍器で頭を殴りたくなる。健人の叫び声のような泣き声を聞くと張り倒したくなるし、北村の罪悪感と少しの下心に満ちた顔を見るとキンタマ潰したくなる。
家でも学校でも。本当、なんだってこう俺の周りは頭がお花畑な連中ばかりなんだろう。お前らの花咲かすために俺から養分奪ってんじゃねーか? と思ってしまう。
一面の花畑に立った俺は足元にある花をひとつ残らず踏み潰し、ブルドーザーで土から根こそぎ掘り返し、仕上げに濃硫酸を撒いていく。そんな光景を思い浮べるたび、心は歓喜に震える。
あぁ、まったくもって不健全だ。
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