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第11話
2人は、留守の間にお互いに起った出来事を報告し合いながら、並んで夕食の支度をした。
食卓には、志津真が買ってきた日本の漬物やフリーズドライのお味噌汁に、威軍が志津真のために買ってきた、志津真のお気に入りブランドのモツァレラチーズで作ったカプレーゼや、人気のデリカ店のサーモンサラダが並ぶ。どれも志津真の好物ばかりで、威軍が甘やかせているのが目に見えて分かる。
「へえ、百瀬がね~」
笑いながら志津真が言うと、威軍が楽しそうに頷いた。食卓に着き、今日の買物の話をすると、大いに盛り上がった。
「ご褒美欲しさですよ」
威軍もクスクス笑っている。アンドロイドと呼ばれる郎主任とは、見紛うほどの輝く笑顔だった。
愛する人と、美味しい食事に、笑顔が絶えない会話。これ以上、威軍が望む幸せは無かった。それは志津真も同じで、そのために実家にも寄らず、急いで恋人の許に帰って来たのだ。
「良かった。安心したわ」
チーズとトマトを一口食べてから、とても穏やかで優しい眼差しで、威軍を包み込むような態度で、志津真が言った。
「え?」
何のことか分からずに、威軍は聞き返す。笑顔を載せたまま頬杖を付いて、志津真はじっと威軍を見詰めていた。
「ずっと気になってたんや」
「?」
昨夜の、エロティックな映画に刺激され、欲望を顕わにしていたであろう自分の表情を思い浮かべて、威軍は胸が落ち着かない。淫蕩な自分の素顔を恋人に知られたようで、罪悪感のようなものさえ感じていた。
「なんかこう、不安そうな、心配そうな…。まるで俺が近くにおらんと生きてられへん、って声やった」
「……」
昨夜の電話が、志津真を不安にした。こんな風に顔さえ見れば、それだけで安心できるのに。
志津真は冗談めかして、大げさに言っていると威軍は思うが、まんざら外れてもいない。あの時の威軍は、志津真の存在が、温もりが、肉体そのものが欲しくて堪らなかったのだ。
「食事も1人で、寂しいかなって思ってたけど、百瀬や石 くんがいてくれてよかったわ。俺が隣におらん時でも、お前には笑ってて欲しいからな」
威軍の揺れる感情も気にも留めない様子で、志津真は嬉しそうに屈託なく笑った。その笑顔の温かさが、どこまでも威軍の事を案じ、大切にしている気持ちを伝えてくる。それが嬉しくて、幸せで、この喜びを、きちんと恋人に伝えておきたいと、威軍は思った。
「それでも…」
「ん?」
珍しく穏やかな笑みを浮かべ、じっと恋人の目を見つめながら威軍は告白した。
「あなたがいなくて…寂しかった、です」
「!」
意外な言葉に、驚いたのは志津真の方だ。
こんなに素直で可愛らしい恋人を見たことがない。いつもの威軍なら、志津真が居なくて寂しいなどと、決して口に出すはずなどない。完璧な郎威軍は、弱味を見せるようなことをするはずがないのだ。
「!おいおい!何やソレ」
言うだけ言うと、後は恥ずかしがって、そっぽを向いてしまった威軍に、志津真は箸を置き、身を乗り出して顔を覗き込んだ。
「そんなこと言うなんて、いつものウェイウェイと違うやん。誰?そんなこと言うのって誰なん?」
「知りません。いい加減にしてください」
揶揄 い続ける志津真に、居たたまれなくなった威軍は、立ち上がって食事の後片付けを始めようとした。
その手を掴み、志津真が、あの誘惑的な美声で囁く。
「そんなん、明日の朝でいい」
「すぐに片付けますから」
志津真の誘惑から逃れようと、威軍が試みる。
「ウェイ、後でいい」
先ほどまでのふざけた調子は忘れたように、急にシリアスになって有無を言わせず、志津真は威軍を引き寄せた。
「でも…」
志津真の求めているものを察して、威軍は抵抗をやめる。威軍もまた、同じものを求めていたからだ。
「今は、先にすることがある」
志津真はゆっくり立ち上がり、威軍を背後から抱きかかえた。まるで、逃すまいとするかのように。
「今日は、お前のお願いやったら何でも聞くで」
耳元で、志津真が蕩 けるような甘い声で囁くと、威軍には悪魔からの誘惑に感じられた。
少しずつ、志津真が威軍の身体に触れる。
「本当に?」
珍しく、威軍は悪魔の誘惑に逆らわないことにした。ほんの少し、鼻にかかった官能的な声で威軍は恋人に応えた。
そんな恋人のいじらしさに、志津真の手がエロティックな動きになる。
「ああ、ウェイに夢中やから…」
蠱惑的な恋人に魅了され、志津真の期待も高まる。服の上から、威軍の悦ぶ場所に触れ、刺激してみる。するとまるで化学反応のように的確に威軍の体温が上がっていくのが分かった。
「…なら、1つだけ…」
自身の身体の熱を感じながら、後ろから顔を覗き込もうとする志津真を避けて、威軍は俯いて小さく答えた。そんな風に甘えることの少ない威軍が、こうも素直になるのを不思議に感じながらも、志津真には、やはり愛おしい。
「なんや?」
優しく、官能を刺激する声で志津真が訊ねると、威軍は淫猥な気持ちが抑えきれず、震えるように呟いた。
「……。出来れば…、今夜は、バスルームで、したい、んで、す、けど…」
「は?」
思いもよらない発言に、志津真は心底驚いて、思わず抱きしめた腕を放してしまった。すぐに威軍の両肩を掴んで振り返らせ、問い質すようにしっかりと目を見つめた。
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